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ありとだに よそにても見む 名にし負はば われに聞かせよ
みみらくの島
                            藤原道綱母

 

(ありとだに よそにてもみん なにしおわば われに
 きかせよ みみらくのしま)

 

意味・・亡き母上の姿が見える、そんな嬉しい話で耳を
    楽しませるという、その名の通りのみみらくの
    島なら、どこにあるのか私に聞かせてほししい。
    せめて遠くからでも母上の姿を見たいから。

    
    「亡くなった人の姿がはっきり見える所がある。
    そのくせ、近寄って行くと、消え失せてしまう
    そうだ。遠くからなら、亡者の姿が見えるとい
    う事だ」「それは何と言う国だね」「みみらく
    の島という所だそうだ」。
    母が死んで喪に服している時、僧侶達が話して
    いるのを聞いて詠んだ歌です。

    母親は何よりの心の支えであった。母がそばに
    いるだけで私は心じょうぶであった。その掛け
    がえのない母が亡くなった。亡くなって見ると
    いっそう母のありがたみがしみじみと分る。
    余人では替えられない母ならではの海のような
    大きな温かみ、気強さがあった。ワッとすがり
    つけるものがすっと無くなってしまった感じが
    する。 
    これから先、どうして行けばいいのだろう。
    死者が行き着く所というのが本当ならば、その
    みみらくの島が、どこにあるかだけでも教えて
    ほしい。遠くからでも、母上がおいでになる所
    だと思って眺めていたいから。

 

 注・・よそにても=余所にても。かけ離れた所からでも。
    みみらくの島=長崎県五島列島の福江島の三井楽。
     遣唐使の一行は必ずここで、飲料水や食料を積
     みこんでいた。夜になれば死んだ人が現れると
     いう伝説もあった。「みみらく」の地名に嬉し
     い伝説が耳を楽しませる意味を含んでいる。

 

作者・・藤原道綱母=ふじわらみちつなのはは。937~995。
    関白藤原兼家と結婚。道綱(右大将)を生む。「蜻蛉
    日記」の作者として有名。

 

出典・・蜻蛉日記。