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消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 

雪にぞありける
                  凡河内みつね

(きえはつる ときしなければ こしじなる しろやま

  のなは ゆきにぞありける)

意味・・あの山頂の雪が消えてなくなる時がないので、

    それで越国(こしのくに)の白山という名前は、

    雪にちなんだものだったということが分かった。
 
    夏になった今でも雪で真っ白になっている山を

    見て「あれが山の名前の起源だったのか」と大

    げさに感心してみせたものです。

 注・・時しなければ=「し」は上接の語を強調する副

     詞。時といものがないのだから。
    越路=越国(現在の越前・越後)の方面。
    白山(しろやま)=石川・岐阜の県境の白山(は

     くさん)2702m。富士山・立山と並び三大

     名山といわれている。

 

作者・・凡河内みつね=古今集の撰者の一人。

 

出典・・古今和歌集・414。

1533


 


山川の 岩にせかれて 散る波を 霰と見する 
夏の夜の月          
                西行

 

(やまがわの いわにせかれて ちるなみを あられと
 みする なつのよのつき)

 

意味・・岩に堰かれた山川の水が飛沫となって散る
    様子は、夏の夜の月の光を受け霰のように
    見えるよ。
    
 注・・せかれて=堰かれて、じゃまをされて。

 

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。

 

出典・・山家集・246。

1196



道のべの 清水流るる 柳陰 しばしとてこそ 
立ち止まりつれ             

                                                   西行

(みちのべの しみずながるる やなぎかげ しばしとてこそ
 たちどまりつれ)

意味・・清水が流れている道のほとりに大きな柳の樹陰。
    ほんの少し休もうと立ち止まったのに、涼しさに
    つい長居をしてしまった。

    この柳のことを知って、芭蕉は次の句を詠んで
    います。

    田一枚 植えて立ち去る 柳かな     芭蕉

    この柳のところで西行の昔をしのびながら休んで
    いると、いつのまにか前の田では早乙女がもう田
    を一枚植えてしまった。自分も意外に時を過ごし
    たのに驚いて、この柳の陰を立ち去ったことだ

 

作者・・西行=さいぎょう。11181190。俗名佐藤義清。

    下北面の武士として鳥羽院に仕える。114023

    で財力がありながら出家。出家後京の東山・嵯峨

    のあたりを転々とする。陸奥の旅行も行い30歳頃

    高野山に庵を結び 仏者として修行する。

 

出典・・新古今和歌集・262

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昼顔や どちらの露の 情けやら  
                  良寛

 

(ひるがおや どちらのつゆの なさけやら)

 

意味・・昼顔が夏の暑さにもめけず、愛らしく
    咲いている。その可愛らしさは、朝露
    の趣を受けたのか、それとも夕露の趣
    によるのか、思い迷うことだ。

 

    昼顔は、昼に花が咲いて夕方にしぼむ。

    横井也有の句に「昼顔やどちらの露も

    間に合わず」があり、朝露にしても夕

    露にしても、時間的に間に合わないと

    いう。

 

    昼顔は朝露にも夕露の影響は受けてい

    ないのは、もちろん良寛は知っている

    のだが。どうしてこのように句を詠ん

    だのかなあと思います。人も同じだが

    間接的に多くの方から恩恵を受けてい

    るのですよと、言いたいのかも知れま

    せん。

 

作者・・良寛=りょうかん。1758~ 1831。

 

出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。

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夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに
月やどるらむ      

                  清原深養父

(なつのよは まだよいながら あけぬるを くもの
 いずこに つきやどるらん)

意味・・今夜はまだ宵の口だと思っていたら
    そのまま空が明るくなってしまったが
    これでは月が西に沈む暇があるまい。
    進退窮まった月は、どの雲に宿を借り
    ているのだろうか。

    暮れたと思うとすぐに明るくなる夏
    の夜の短い事を誇張したものです。

 注・・宵=夜に入って間もないころ。

 

作者・・清原深養父=きよはらのふかやぶ。

    九世紀末が十世紀前半の人。清少納言

    の曾祖父。

 

出典・・古今和歌集・166、百人一首・36。