無限の可能性①のつづきです。


私は消え入りそうな声で先生に尋ねました。

声が震えているのが
自分でもよく分かりました。


「先生、がんセンターの先生から
 左眼が網膜剥離していたと
 伺ったのですが…」


私は

(あんなに怖かった「網膜剥離」の
 言葉が言えた!口に出すことができた!)

と、

自分の中だけの 
小さな小さな達成感でいっぱいになり

同時に
今まであれ程怖がっていた言葉を
発することができた自分に 驚いていました。



主治医の先生は私の質問内容を察して
こう説明してくださいました。


「網膜剥離…というよりは、
 抗がん剤治療で腫瘍が小さくなる時に
 周辺の組織も一緒に巻き込んでしまって

 結果として網膜に損傷が出た、
 ということだろうと思います」


このご説明を聞いて、
全ての疑惑が一瞬で晴れました。



網膜の損傷は、
治療に伴って必然的に起こるもの
だったと分かったのです。

それを「網膜剥離」と表現するか
「網膜の損傷」と表現するかの
違いであっただけだったのです。




主治医の先生の見解としては、

腫瘍付近の網膜の損傷は不可避であるため、
(先生としてはその損傷は当然のことと
 認識されていたため)


敢えて私に説明する必要はないと
判断されたのだと察しました。




先生のご説明はショックでしたが、

心のどこかで

ほっと安堵している自分がいました。






息子と一緒にいて、


網膜剥離に気付いてあげることが
できなかった

息子のことを守ってあげることが
できなかった


私は
左眼の視力が残っていてほしいと
ただ祈っているだけで、

何も守ってあげられていなかった


ずっと自分を責めていたのですが、



先生のこのご説明で

「あなたのせいじゃないよ」と

言ってもらえた気持ちになりました。





私は続けて先生に伺いました。

聞きたかったことは、
「息子の視力」についてです。




先生は答えました。

「視力を司る部分の網膜が損傷を
 受けていたら、

 視力が残ったとしても
 0.1程度になるかと思います」



私は、
「そうですか…」と 小さく答えました。


すると、続けて先生は ボソッと
こんなことをおっしゃいました。


「ただ、損傷を受けている部分は、
 視力を司る部分からギリギリ
 外れているように思えるのですが…」


…………………………




網膜は、眼球全体に張り巡らされています。

そのうち「黄斑」という
網膜の中心部分が
視力に直接関わりのある部分で、

この付近が損傷を受けてしまうと、
視力はほとんど望めないと言われていました。





しかし、大学病院の先生の見解によると、

息子の網膜の損傷部分は、


ギリギリ黄斑から外れている!
(すなわち、視力は残るかもしれない!)

ということだったのです!!



だからと言って
安心できる状況ではないですが、


絶望の中に一筋の光が差した瞬間でした。



…………………………



診察の最後に、
先生はこんなことをおっしゃいました。


医学的には、視力検査をしてみないと
 見えているかどうか分からないという
 説明になってしまうのです」

と。



「医学的には」
という言葉を使ってくださった先生。


それは暗に
「時として人間の可能性は
 医学を超えることもある」 と

私に言ってくれているようでした。



息子の眼は

医学的には見えているとは断言できない
状態だけれど、


人間は無限の可能性を秘めていて



それは時に医学すら超越して

奇跡を起こすことができるのだと



先生の説明を伺って感じたのです。



…………………………


正直、まだまだ怖い日が続きます。


たとえ視力があったとしても
文字が読めるかどうかは
分からないという不安もあります。



安心して過ごせる日というのは、

息子の視力について確証が持てて、
尚且つ5年経って寛解を迎えるまで
来ないだろうと思います。


それでも、
 
真っ暗で何も見えなくて
救いも希望も見出せなかった頃に比べたら


随分と光が差し込んできたように
感じられました。



今の私にできることは、

毎日息子のために祈ること。

息子を信じること。


そして、
息子とのかけがえのない大切な瞬間を

噛み締めながら生きること。



絶望の淵に立ち、遠回りもしたけれど
結局この答に戻って来ることができました。



これからも夫婦で協力しあって

息子が「生まれてきて良かった」と
思えるような人生を送れるように

努力して、
努力して、

努力を続けて、


息子を大切に、大切に育てていきます。


…………………………



今回で「闘病」に関する記事は終了です。
(再発がなければ…ですが)


たくさんの方に応援していただき、
なんとか経過観察を迎えることができました。

何度も挫けそうになりましたが、
その度にあたたかいコメントに
心を救われました。

心に響く言葉を沢山かけていただきました。


絶望の淵にいた私に
手を差し伸べてくれたのも

ブログの先にいる皆様でした。


お一人お一人からコメントを頂くたびに
「この方はきっと、実際お会いしても
 素敵な方なんだろうなあ」

と想像しながら、
コメントの先にいる「実際の皆様」を
思い浮かべてお返事をしていました。

なので、私の頭の中には
たくさんの優しい人たちが存在しています。



皆様に出会えてよかった。

私の人生にしっかりと刻まれました。




ほんとうに、ほんとうに

ありがとうございました。



…………………………


まだ書きたいことがたくさんあります。


次回以降の記事は、

視覚支援学校に連絡を取ったり
東京の外来に行ったり

私なりに行動したことの記録、


そして
息子の視力についての様子や
息子の成長について

書いていきたいと思います。


ここまでお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございました。


これからもどうか、
よろしくお願いいたします。