練馬区議会では、区政についてどんなことでも質問できる一般質問を、年1回ずつやります。9月12日に今期最後の一般質問をしましたので、その報告を書きます。

今回のテーマは、①コロナ禍の生活困窮者支援 ②居住支援 ③女性支援 ④障害者施策 ⑤学校給食 ⑥美術館再整備計画 で質問しました。順番にここに紹介しますが、美術館の話は今後動きがあると思われるので、先に早めにご紹介することとします。

 

大きい太文字は、内容が分かりやすいよう見出しとしたものです。

 

なので、今回の内容は、今練馬区が計画している美術館の大規模改築、再整備について。

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(かとうぎ桜子)

美術館再整備計画について伺います。

区は中村橋駅前のサンライフ練馬を廃止し、その敷地も活用しながら美術館・図書館を一体的にする大規模改築を計画しています。

 

その地域性を生かした美術館について、どう考えるか

どんな美術館が良いか、それは、その美術館のある立地や地域課題によって違います。

私の会派では群馬県太田市の美術館図書館の視察に行ったのですが、例えばここは、太田駅前のにぎわいづくりのため、若い人が気軽に立ち寄ることのできる場を作るという趣旨があったと感じました。あるいは金沢の21世紀美術館は兼六園の近くにあり、ゆったりとした街並みにみどりが多く、美術館は公園と調和したものとしてあります。このような他自治体の事例を見ると、美術館はその街が観光地なのか住宅地なのか、周りに何があるかなどの特徴が生かされることが重要であると感じます。

 

東京は主な移動手段が電車を中心とした公共交通機関であるという住民が多く、中村橋駅も美術館に行く以外にも多くの人が利用しています。また、住宅の多い練馬区の場合、観光する場所や大規模な商業施設のある都心と違って観光で訪ねてくる人よりも住んでいる人が利用しやすい場を作ることが必要であるという特徴もあるのではないでしょうか。そして、練馬区の美術館はこれから新しく建てるわけではなく、すでに建物はあるのだから、あえて大きく変更しなくても今あるものを有効活用することも可能です。

 

地域との関係性について区は「駅周辺のまちづくりと連携し一体的な景観として演出する」としていますが、再整備構想やまちづくり検討会の現状からは具体的な姿は見えてきません。区は、練馬区の美術館の置かれた立地をどうとらえて今後の整備を進めようとしているのか、見解を伺います。

 

81億円もの費用をかけることは果たして適正なのか

7月の総合・災害対策等特別委員会では、再整備にかかる費用が81億円と示されました。大変大きな金額を費やすことになりますが、果たして適正なのでしょうか。この金額を区はどのように評価するのかをお聞きします。

 

練馬区はコロナ禍で財政が厳しくなるのを契機に、2021年度予算編成時に緊急対応を実施しました。

その中で

・高齢者の紙おむつ支給上限を8000円から5000円へ見直し、対象者の見直しを行い

・配食サービスについては委託事業をやめて事業者登録制に変更

をしました。

その結果、紙おむつ支給については2019年度決算で約2095万円だったものが2021年度決算では約1920万円に、また、配食サービスは2019年度決算では委託料として約6152万円だったものが2021年度はパンフレット印刷代だけになっています。

事業の廃止や変更による区民への影響は大きく、私はこの1年、何人もの方から紙おむつ代の負担感についてお話を聞いています。財政難に乗じてこのような、区民生活に影響を与える予算を削減しながら、一方で81億円もかけて、すでに建物がある美術館の再整備を行う。区長が一体何を一番大切に考えて区政を行っているのか、その姿勢が問われることです。

 

しかも、物価上昇しているのにやるのか?

また、物価上昇の中、建築資材にかかる費用も上昇傾向にあり、それがいつ収束するかも分からない現状にあります。そうなると実際にかかる費用が81億円を超過することも懸念されます。その点について、区はどのように見込んでいるのかをお聞きします。

2010年から検討された総合体育館の改築の計画は、東日本大震災やその後の建築費の高騰などを理由に保留した経緯があります。美術館についても、現在の社会情勢を踏まえ計画の見直しをすべきです。考えをお聞きします。

 

もし大規模改築した場合、維持運営費の見込みは?また、9月5日が提出期限の参加表明所等の状況は?

また、大規模改築を実施した場合、維持運営費を今より抑えられるのか、よりかかるようになるのかも検証すべき大切な点です。維持運営費を抑える方策について区としてはどのように考えているか、維持運営費をどの程度と見込んでいるのかをお聞きします。

8月からは基本設計を行う事業者の募集をしており、9月5日が参加表明書等の提出期限となっています。現在参加表明書を提出している事業者数などの状況をお聞きします。また、基本設計の段階からの区民の参画についてはどのように考えているのでしょうか。事業者任せにするのではなく、区としての主体的な対応が必要ですが、考えをお聞きします。

 

ハコを作るのではなく、ソフトの充実を

そもそも、芸術の振興はハコを作れば進むわけではなく、むしろソフトの充実こそが求められるのではないでしょうか。

この8月、国際博物館会議で美術館などミュージアムについての新たな定義が採択されました。これまで美術館は「作品が保存され、研究され、開かれる」ことが大きな目的でしたが、それに加えて、「一般に公開され、アクセスしやすく、インクルーシブであり、多様性と持続可能性を育む。倫理的、専門的に、そして地域社会の参加を得て運営されるものであり、コミュニケーションを図り、教育、楽しみ、考察、知識の共有のために様々な体験を提供する。」ことが目的になっています。

この定義に基づき、区民が身近に楽しみ学ぶことのできる場であるソフト面を充実させた美術館を再構築することこそが今求められているものではないでしょうか。例えばこどもや障害のある人が触って楽しむことのできるものを作る、ワークショップを充実するなど、独自の魅力が感じられ、練馬区で活動したいと思う芸術家が増えるような支援策にこそ力を入れるべきではないでしょうか。区の見解をお聞きします。

 

先の見通しの立ちづらい今こそ、地に足をつけた、区民ひとりひとりが安心して生活し、愛着を持つことのできる練馬区をめざすことを求めて、一般質問を終わります。

 

【回答:区長】

まちと一体となった美術館を作りたいと思っている。なぜ紙おむつなどの話と比較するのか理解できない。

熱意あふれるご質問をいただきました。お話の内容が、大きく二点に分かれると思います。

一点目は、 「美術館はこうあるべき」というご指摘についてです。東京の中の練馬区という住宅地にある特性を活かしながら、住民が利用しやすい美術館にすべきというご意見かと思います。まさに、新しい美術館のコンセプトの一つである、「まちと一体となった美術館」という区の考えと同じではないかと思います。

 

もう一点、再整備の経費についてです。こちらはなぜ突然、紙おむつや配食サービスの話が出てくるのか全く理解ができません。就任以来、コロナのワクチン接種など、医療福祉分野を中心に、数々の練馬区モデルを立ち上げ実行してきました。美術館の再整備はその上に立って実現しようとしているものです。どちらも人間が生きていく上で不可欠なのです。両者を比較すること自体が間違っています。

再整備するからには、コンセプトに「本物のアートに出会える美術館」「併設の図書館と融合する美術館」を掲げたように、優れた美術館にしなければならないと考えています。

当然、経費はできるだけ抑える必要がありますが、将来の子ども達の為にも、ハードとソフトの両面にわたり歴史に残る、区民が誇りにできる美術館にしなければなりません。

区民の皆さんと力を合わせ、みどりの風吹くなか誰もが優れた芸術を楽しめる美術館を創りたい。心から念願しています。

私からは以上です。その他の質問につきましては関係部長から答弁致します。

 

【回答:地域文化部長】

私から美術館再整備についてお答えします。

美術館は、開館から37年が経過し、施設や設備の老朽化が進んでいるため、大規模な改修が必要な時期を迎えています。7500点を超える収蔵品の活用や大規模企画展の開催にはスペースが不足し、展示・収蔵環境やバリアフリーなど、多くの課題を抱えています。大規模改修を基本とした場合でも70億円程度と試算していますが、改修ではこれらの課題に充分な対応ができないため、改築としたものです。

美術館の再整備にあたっては、「まちと一体となった美術館」をコンセプトの一つに掲げています。東京の中の練馬区という住宅地にある特性を活かし、美術の森緑地と商店街・駅へと続く動線を一体的な景観として演出し、駅を降りたら『美術館のある街・中村橋』を創出します。町会・自治会、商店会など区民による地域に根ざした活動や、学校、企業などとの連携・協働により、中村橋駅周辺のエリア全体が文化芸術の拠点となるよう整備します。

 

再整備にかかる経費は、プロポーザルの実施要項の中で、既存建物解体費を含めた概算工事費の上限額として示した76億円に、工事監理費などを加え、81億円程度と見込んでいます。これは、近年の他自治体事例などを参考とした試算です。今後、設計を進める中で、工事資材等の直近の市場取引価格等を反映して積算して行くこととなります。

 

設計者を選定するプロポーザルでは、イニシャルコスト、ランニングコストの抑制、環境への配慮、ユニバーサルデザインなど、建設、運営、施設利用など様々な場面を見据えた工夫、機能、具体的効果のほか、地域の方々の声をどのように設計に反映させるか、などの提案も受けることとなっています。現在、20社を超える参加表明書が提出されたところです。 今後、優れた創造性を持って質の高い設計を行える事業者を選定して行きます。

設計を進めるにあたっては、節目節目で区議会に報告するとともに、ご指摘を受けるまでもなく、ワークショップなどの取り組みにより、区民の方々のご意見を聞きながら進めます。

 再整備後は、効果的・効率的な管理運営と長期的な展望に立った運営を行うため、練馬区文化振興協会が担う指定管理者制度による運営を想定していますが、コンセプトの実現や、併設の図書館、新たに設置が想定されるカフェなどのサービス施設も含めて勘案し、最適な運営形態を整備と並行して検討します。

観覧料収入や図録などの販売収入の増収、国や関係機関からの補助金や助成の活用、クラウドファンディングなども活用した企業や団体、個人からの寄付や協賛、広告収入など、収入の確保に努めてまいります。

これまでも区立美術館では、独創的で優れた企画展の開催に止まらず、企画展のテーマに合わせた講座や乳幼児とその家族も楽しめるワークショップなど、さまざまな教育普及事業を実施し、多くの方に参加していただいています。基本構想に示したとおり、これらのソフト事業をさらに充実していく考えです。

 

引き続き、公共施設等総合管理計画に基づき、中村橋区民センターの大規模改修により、 トレーニング室の整備や会議室を増設し、サンライフ練馬の代替機能を確保します。その後、令和7年度を目途にサンライフ練馬を廃止し、当該敷地と合わせて美術館を全面改築し、貫井図書館と一体的に整備します。令和9年度の開館を目指していきます。

 

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いかに美術館再整備をすることが正当性があるかを長々と答弁されましたが、今の区政の十八番である、人の話を「理解できない」とか「指摘されるまでもない」とか、そういう蔑む言葉を使うのはなんなんでしょうかね。品性を疑います。

 

区の財政でできることは限られている。そういう中で、全体の財政規模から見たら効果が決して大きいとは言えないような、紙おむつ支給の制限とか配食サービスなどで区民の生活を苦しめる理由はいったい何なのかが分からないのです。全体の財政の割合からすれば少ない、そういうところを削らなければならないほどお金がないのにハコモノは作るんですか、ということ。

そして、私の質問でも言っていますが、美術に力を入れるということは、ハコを作ることではないでしょう、ということを言いたいのです。