介護保険の中で新しく始まった「介護予防・日常生活支援総合事業」。要介護認定で要支援状態の人の訪問、通所についてはこちらの事業に移行し、従事者は必ずしも専門職ではなくても良く、その代わりに料金を安くしようというものです。これは、私は介護の質の低下、高齢者の権利擁護という点から課題があると思っています。

そもそも、要支援のことが「要介護認定の比較的軽い状態」と言われたりしますが、介護保険を使っているのは高齢者人口の2割程度と言われています。その2割に入る人のことを「軽い状態」ということも疑問です。

 

資格を持っていない人が従事する代わりにその人たちが受けられる14時間の研修を、昨年度から練馬区は始めました。

私は疑念を持っているので、始まる際にも課題を指摘しました。その時の記録はこちらをご覧ください。

 

今回、実際始まった状況の確認も含め、改めて質問をしました。

 

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(2017年9月22日 決算特別委員会にて)

〈かとうぎ桜子〉

福祉サービス人材確保・育成等経費の中の、訪問型サービスA従事者研修等委託料について、伺います。

この研修は、介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスを担う人材育成のための14時間、日数にすると4日間の研修で、昨年度から始めたものです。

2016年度の予算特別委員会でも、これから始めるに当たってということで質問させていただきました。

その際に、研修内容は、国から示されたカリキュラムなどを参考にしながら、介護に従事する際の基礎的知識を学ぶための研修とするという答弁がありました。

実際、昨年度から始められて、具体的にどのような内容で行っているのか。

また、実施回数や参加者数などの状況をまずはお聞かせください。

 

〈高齢社会対策課長〉

訪問型サービスAの従事者研修の内容です。

こちらは、委員がおっしゃったとおり4日間、14時間の研修になっております。

科目としましては、介護保険制度について、介護の現場の状況について、また、事業所の運営について、不正の防止、また高齢者の特徴、認知症の特徴などについて学ぶ研修となっています。

実績としましては、昨年度、前期・後期2回実施しておりまして、計126名の方の参加がございました。

今年度は前期日程で70名の方が参加しておりまして、後期は11月に実施する予定です。

 

〈かとうぎ桜子〉

受講された方の年齢や性別など、「こういう方が多く受講された」という傾向が見られれば、お聞かせください。

 

〈高齢社会対策課長〉

参加者の傾向です。

まず、性別でいいますと、9割以上は女性の方という結果になっています。

年齢としましては、幅広い年代の方に参加いただいておりますが、一番多い年代は40代の方になっています。

 

〈かとうぎ桜子〉

この研修を受講された方がその後に働くのはどういった現場になるのか。

それから、修了後のスキルアップはどのように図られるのかをお聞きします。

 

〈高齢社会対策課長〉

本研修修了後は、介護サービス事業者と連携しまして、就職相談会を研修修了直後に実施しています。

実際に訪問介護サービス事業所に多くの方が就職し、訪問型サービスの従事者として活躍されているのが現状にございます。

 

就職した後の育成です。

まず、事業所に対して実務的な研修としまして、個人情報保護に関するオリエンテーションの実施や、最低2回以上の同行訪問などをお願いしており、研修修了者が安心して従事できるような配慮をしています。

また、区では、練馬介護人材育成研修センターで実施している研修の受講ですとか、また初任者研修等により上位の資格取得経費の補正などを実施しておりますので、介護スタッフの方が活躍できるよう継続的な支援を行なっています。

 

〈かとうぎ桜子〉

受講者数と修了者数を資料でいただいたのですけれども、計算してみると、今まで3回行われた中で、受講者のうち2割から3割の方が就業されているという状況で、7割の方は就業されていないことになります。

その点については、区としてはどのように捉えているのでしょうか。

 

〈高齢社会対策課長〉

委員がおっしゃるとおり、平成28年度の実績で言いますと、126名に対して39名ということで、約3割の方が就業しております。

この数字は、一般の就職面接会と比べますと相当高い数字でございますので、介護人材確保に大きく寄与していると考えてございます。

また、就職に至っていない方についても、研修修了後のアンケートを実施しております。

その事情としては、子育てなどの事情ですぐに働くことができないとか、もう少し仕事について詳しく学んでから働きたいと考えておられる方がいらっしゃることもわかっております。

そのような方には訪問ヘルパー向けのセミナーですとか、就職相談会のご案内を継続的に情報提供しておりまして、将来的に就業につなげる取り組みを行なっています。

 

〈かとうぎ桜子〉

先ほどのご説明で、40代の女性が多いということを言われていたので、子育てがひと段落してお仕事をしたいということで受講されている方も多いと想像できるわけです。そうすると、受講してみた後、「やっぱりまだ違う」と思われた方がいるということかと思います。

私が問題意識として持っているのは、研修の時間数が少ないのではないかということです。ホームヘルパー2級―今は介護職員初任者研修となっていますけれども、130時間。あと、教員免許を取るために、体験をしてみる「介護等体験」は7日間ということで、体験よりも短いことは、私は課題があると思っています。

勉強するだけでいいということでもないけれども、特に権利擁護とか家族の負担軽減ということは学んでいかなければいけないと思いますし、しっかりと研修を続けることが必要だと思います。

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私もヘルパー2級を持ってますが、130時間研修を受けてもやっぱり最初は不安でした。それは、いくら勉強したって初めて現場に出るのは不安なので、どこかで覚悟して現場に出なければいけないわけですが、それにしても14時間の研修だけで現場に出ろというのはあまりにも酷だと思います。しかも、人の家に行くわけですから。

実際、課長の答弁でも「もう少し仕事について詳しく学んでから働きたいと考えておられる方がいらっしゃることもわかっております。」と言っていますものね。そりゃそうだよなあと思います。

 

それから、研修後のフォローとして、事業所でのオリエンテーションとか最低2回の同行訪問と言ってますが、これは資格を持ってる人が働くときだって普通どこでもやると思います。この研修を受けた人だけの特別な体制ではない。私も今まで3か所の事業所に所属していた経験がありますが、当然オリエンテーションや同行はやりました。それだけでは、14時間しか研修を受けないで現場に行く人にはまだまだ不安だろうと思います。

 

福祉の専門性とは何だろうと、常に考えています。

私は、一番大事なことは、「本人を尊重するということ」だと思います。

これは、言葉にしてみれば当たり前のことですが、でも私、誰もが持っている悪い感情として「支配欲」って、とても大きいように思うのです。

相手を自分より下に見て支配しようとする。自分が正しいと思っている価値観を(たとえ良かれと思っていたとしても)相手に押し付ける。そういうことは、誰にでも起こり得る。

実際、私は介護の現場で同僚のヘルパーが利用者のことを「あの人はわがままだ」というのを何度も聞いてことがあります。相手が自分の言うことを聞いてくれないからといって「わがまま」呼ばわりするのはおかしい。これは、当事者尊重とはかけ離れた姿勢だと思います。でもそれは特別に心がけが悪い人に起こることではなく、誰にでも起こりうることだと思います。

だから、福祉の仕事につく際には、自分自身に自分の持つ価値観を問い直し続けなければ、とんでもない支配的な価値観に陥ってしまう恐れがあると思っています。このような、とんでもない価値観に陥らないことが、福祉に従事する者にとって最大の大切な専門性だと私は思います。

 

介護予防・日常生活支援総合事業が専門職でなくても従事できるようになった考えというのは、要支援という「比較的要介護度の軽い状態の人」(最初に書いたようにこの評価も間違っていると私は思いますが)に対する家事援助であれば、専門性がなくても対応できるということだったのではないかと思います。

でも、介護従事者にとって大切なことは家事や介護の技術よりもむしろ、本人を尊重することを忘れずにい続けることだと思うので、研修期間が短いことは私は懸念しているのです。