6月27日の医療・高齢者等特別委員会で地域包括支援センター本所の委託についての報告がありました。

そもそも「地域包括支援センター」というのは、高齢者や介護の必要な方、介護について心配されている方などが自分の住む地域で生活に関することどんなことでも包括的に相談できるようにということで設置されているセンターで、介護保険法に位置づけられています。

介護保険法に書かれた事業内容を要約すると、(第115条の44)
・要介護状態の予防のための事業
・介護保険被保険者の実情把握、情報提供、関係機関との連絡調整
・虐待防止、早期発見、被保険者の権利擁護
・サービス計画の検証、サービス利用状況の定期的な協議などを通じた日常生活の支援

などを行うというものです。

上記のような事業を実施するために、センターには必ず、主任ケアマネ(ケアマネの経験を5年以上積んで研修を受け、他のケアマネの調整などの役割を果たす)、保健師、社会福祉士の3つの専門職は置かなければいけないと、「介護保険法施行規則」に定められています。

練馬区では、福祉事務所に併設している4つの「本所」を行政直営で運営し、また地域の中にある施設併設の24か所の「支所」を民間委託で設置してきました。
地域包括支援センターに関する練馬区による説明はこちら からご覧いただけます。

今回、直営で運営してきた4つの「本所」のうち、練馬だけを直営で残してあとの3つは民間に委託するという方針を出してきたのです。

6月27日の委員会での説明によれば、直営のセンターを持っているのは23区の中では練馬を含めて6区で、必ずしも多くはないのですが、直営を残してきた意義としては虐待対応や様々な事情で困難なケースについての対応、また介護事業所などが直面したそうした事例への助言などをする役割を行政が責任を持って担うという意味があります。

ただ、地域包括支援センターでは、3つの専門職の確保が難しいという課題がある。

支所では保健師の確保が難しく、代替として実務経験のある看護師が対応している場合もあるが、それでも人手が足りずに一時的にいない状態になっている支所が現在は5か所あるとのこと。

また本所では独自に主任ケアマネの確保が難しく、民間団体に所属している主任ケアマネに来てもらっていた時期もあったが、それは雇用の形態として問題があるということで現在では「任期付採用 」という5年の期限を上限とした任期付きの行政職員という位置づけで働いてもらっている。
任期は5年を超えることができず、今年度で任期が終了の予定なので、今後の方針を決めなければならない。
担当者に聞くところによれば、正規の公務員として採用するのもルール上なかなか難しく、また、現在いる公務員の中から新たに主任ケアマネを育てるのも難しい(今、行政はほとんど介護の現場を持っていませんから、実務経験を積める場が限られています)ので、行政が直接主任ケアマネの雇用を確保するのは現実的には難しく、業務を委託して、委託先の民間事業者に人材確保してもらうのが現実的であると整理したようです。

練馬区役所内だけは直営として残し、光が丘、大泉、石神井の本所を委託することになるのですが、委託した場合の業務内容は以下のようなものになります。(委員会資料より抜粋)

・総合相談事業(決定事務、介護保険認定調査事務の一部を除く。)
・権利擁護事業(行政専管事項等を除く)
・包括的・継続的ケアマネジメント事業
・在宅医療・介護連携施策の推進事業(新規)
・認知症施策の推進事業(新規)
・介護予防支援事業(新規)
・地域包括支援ネットワークの構築

「新規」とあるのは、介護保険法改正によって来年度から新しく始まる事業です。
先に書いたように人材不足により3職種の確保が可能かどうかという懸念もある上に、来年度法改正があって新規の事業が始まるというわけです。今回の法改正は特に要支援が介護給付から外されて地域支援事業に移行するという大きな転換がある時期でなので、事業者の負担感が重くなることも懸念されます。

高齢者虐待の通報があった場合に立ち入り調査をしたり、措置で施設に入所させるといった大きな権限の発生するものについては委託できないので引き続き直営で行うということなのですが、虐待に関しても以下のような内容は委託できると法に定められているため、練馬区でも今後、民間事業者が行うことになります。(高齢者虐待防止法17条)

・虐待防止・虐待を受けた高齢者の保護に関する相談、指導、助言。
・虐待の通報に関すること、通報の届け出の受理、高齢者の安全確認、事実確認、養護者の負担軽減のための措置

法律上は虐待に関する大きな部分を委託できることになっているのです。
ちなみに練馬区ではこどもの虐待に関しては、委託の子ども家庭支援センターではなく練馬と石神井の直営の部署で行うことになっているので、こども分野と比較すると高齢者の虐待問題はかなり民間にゆだねられることになってしまうというのも大きな課題ではないでしょうか。虐待に関することは高齢者の命、人権、個人情報に大きくかかわる問題なので、民間に任せるのは慎重であるべきです。

本所で扱う業務がこれだけ重いものになるので、働く人は単に専門資格を持っているだけではなくその道の実務経験がある人が求められます。

今後、本所の委託をおこなうにあたって、支所の運営実績のある法人に加点する形で評価したいという説明もありました。また、支所で働いて経験を積んだ人に研修を受けてもらって本所に配置転換するということ、本所の主任ケアマネは2名体制にして拡充することなども説明がありました。

しかし、前に書いたようにすでに人材不足が起こる中で、今支所にいる職員を本所に配置転換したら、支所の業務が成り立たなくなることも懸念されるのではないでしょうか。

しかし今まで書いてきたように直営で運営してきた地域包括支援センター本所の業務を民間に任せることにはたくさんの懸念材料があります。
主任ケアマネの任期付き採用を始めた段階で5年の期限があることはわかっていたわけで、もっと早い段階でより良い工夫を考えるべきだったと思うし、「直営のセンターを持つ他区に関しても主任ケアマネの確保の難しさから今後直営を維持するのは大変だと聞いている」という答弁もありましたから、行政が責任を持って業務を実施するのに制度上の課題があるということについては国に対しても意見を言っていくべきなのではないでしょうか。

委員会の議論の中で、担当課長が折にふれて、「これまで行政が地域包括支援センターの業務で高齢者にかかわってきたのは、区も介護予防支援事業者としての立場にあったからだ」と答弁していました。法的には事業者としての位置づけを持ってかかわっているといえるでしょうが、その前に高齢者福祉の向上に責任を持つ行政であること、介護保険の保険者でもあることについての意識でもって地域包括支援にかかわっていかなければならないという課題のとらえ方はしていないのだろうか、という点も疑問に感じたところです。

高齢者が安心して地域で暮らすためのしくみのなかでの大きな転換であり、まだまだ大きな課題を残している分野です。