802.タラレバは 過去を引き摺る 思い出は 明日の扉の 潤滑剤に

 

 「目を閉じて何も見えず

 哀しくて目を開ければ

 荒野に向かう道より

 他に見えるものはなし」

 

 これは昨年10月8日に旅立った谷村新司(74)が1980年にソロで出した昴(すばる)の歌詞。

 昴は真冬の夜空にまるで冠(ティアラ)のように青白く輝く星団で、主な7つの星は3-5等級。しかし今の筆者の視力👀では鑑賞しづらい。

 何故こんな話をするのか。1週間前、偶然見付けた2023年10月19日付の産経新聞📰の『産経抄』が谷村逝去と『昴』を話題にしていたからだ。同記事が40年以上前の記憶を蘇らせた。

 その頃は米軍岩国基地で働いていたが、日米安保や国際情勢など全く眼中になかった。友達3人とカラオケ🎤がある飲み屋に行ってはこの歌を歌った。緩やかなメロディーと大草原と夜空の星🌟のイメージに魅せられていた。

 実際、谷村は地平線まで続く大草原に満天の星をイメージして『昴』を書いた。後年(2000年頃)、彼はその原風景を探すためNHKに自ら提案し、『三国志』で有名な五丈原(現在の中国陝西省、諸葛孔明が魏と戦った⚔場所)を訪れた1。NHKは、夜、彼が現地の高台に立ち、アカペラで『昴』を歌うシーンを撮影する予定だった。準備を整えたスタッフが待ち構えていると、彼は、

 

違う

 

と叫んで歌わなかった。何故か。目の前に広がった景色が原風景と異なっていたからだ。

 とは言え、谷村は『昴』を「私の行く道をも決める大きな節目となった曲」だと語った1。歌詞の後半にある「我は行く さらばすばるよ」とは、彼の歌手としての決意でもあった。

 さて、筆者は4回の転職を含めて人生の岐路に立ったことが何度もある。しかし当時を思い出して「タラレバ」を考えることはない。過去を引き摺りながら明日のは開けられないからだ。

 この歳になると、できれば平坦な野原を歩みたいが、目の前に荒野しかないならそこで足掻くしかない。

 

[出典1  https://www.sankei.com ›

2006年11月10日付産経新聞『わたしの失敗』音楽家 谷村新司さん<4完> 探し求めた原風景に出合えるまで(参照 2024-6-24)]