708.外交官 冷静沈着 保つけど 業を煮やして 悲憤慷慨

 

 外交官イメージとはどんなものだろうか。日本では国家公務員採用総合職試験✍を突破した人が外交官になる。大使館や領事館勤務で経験を積み、各国の海千山千の剛の者と折衝する。海外の文化にも明るくなければ職責を果たせない。

 となれば、見識が高く冷静沈着を旨とする人物像想像する。

 現在内閣官房参与も務める宮家邦彦氏は元外交官。在中国大使館公使、安保課長、中東アフリカ局参事官などを歴任している。職務で彼の名前を知った筆者は、数年前から彼が寄稿している産経新聞のコラムを毎回読んでいる。筆鋒は鋭く、彼ほど冷静沈着な外交官というイメージにピッタリと嵌る人はいないと思っていた。

 3月21日、『拝啓、プーチン大統領閣下』✉というコラムを読んだ1。「ええっ!」が筆者の反応。次に、「彼さえも業を煮やしている」と感じた。その冒頭は以下の通り。

 

「拝啓、親愛なるウラディーミル・プーチン大統領閣下

 大統領選での5選、誠におめでとうございます。……、計画通りの圧勝でしたね。ロシア専門家でもない私はこれまで貴閣下にお手紙を書くことを差し控えておりました。でも、今回ばかりは思うところあり、こうして書を認(したた)める非礼をご容赦ください。」

 

 続いて宮家氏は、「ソ連崩壊という屈辱を乗り越え、ロシアを見事に再生させた」と彼を褒める。「ウクライナ侵略の終わりは見えず、ロシアは戦時経済に移行した」と分析する一方、「こんな戦争を続けても苦しむのはロシア国民ではないのですか」と疑義を呈する。

 そして彼が注目したのは、2023年10月にプーチン氏が新しい国際秩序に触れ、「米国とその衛星国は軍事、経済、文化さらにはモラルや価値においてもヘゲモニーを獲得すべく」努力していると演説したこと。つまり、「ロシア系住民を救済する特別軍事作戦」と呼んだウクライナ侵略を、新国際秩序構築に捻じ曲げた。

 最後に宮家氏が憂いたのは、ロシアが中国のジュニア・パートナーになること。そして新国際秩序云々や米国・NATOとの対峙は「欧米に対する劣等感の裏返しとしか思えない」と嘆き、「永遠に閣下がロシア国民のためにご尽力されますよう」と結ぶ。

 さて、宮家氏の箴言はプーチン氏にとっては馬の耳👂に念仏、否、白熊🐻耳に念仏。元外交官が一番恐れるのは、「悪貨が良貨を駆逐する」こと。

 3月7日、スウェーデンの独立調査機関「V-Dem研究所」が「民主主義リポート」を発表した2。集計対象の179カ国・地域のうち、民主主義陣営91に対し権威主義陣営は88。但し人口では民主主義陣営29%(約23億人)に対し、権威主義陣営が71%(約57億人)となり、10年前の48%より増加している。

 

[出典1 2024年3月21日付け産経新聞『宮家邦彦のWorld Watch』]

[出典2 2024年3月21日付け産経新聞『世界の民主主義後退』]