656.春待ちて 桜前線 動き出す 先駆け1輪 憂き世に開花

 

 筆者は桜🌸を詠んだ歌をこれまで何度か紹介した。

 

 ブログNo.56

「世の中に 絶えて桜🌸の なかりせば 春の心は のどけからまし」(在原業平、伊勢物語)

「願はくは 花🌸の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」(西行法師

 

 ブログNo.341

満開の 桜🌸ずずんと 四股を踏み われは古代の 王として立つ」(佐々木幸綱)

「人々の 嘆きみちみつる みちのくを 心してゆけ 桜🌸前線」(長谷川櫂、東日本大震災後)

 

 ブログNo.346

春風に 誘われて散る 桜🌸花 止めて止まらぬ 我が思いかな」(有村治左衛門)

「君が為 尽くす真心 天津日の 雲の上まで 匂いゆくらん」(綾)

 有村は「桜田門外の変」(1860年3月24日)で井伊直弼の首級(しるし)を挙げ、その後自刃した薩摩藩士。返歌を詠んだ綾は井伊襲撃前日の23日、有村と仮祝言のを交わした。

 

 ついでなので桜🌸を愛でた小林秀雄が著書の『本居宣長』で引用した本居の歌も紹介する1

 

「我が心 やすむまもなく つかはれて 春はさくら🌸の 奴(しもべ、やっこ)なりけり」

「此の花に なぞや心の まどふらむ われは桜🌸の おや(親)ならなくに」

「桜🌸花 ふかきいろとも 見えなくに ちしほ(血潮)にそめる わがこころかな」

 

 さて、何故桜🌸に拘るのか。しかもこの時期に。

 筆者は「皆さまへのお知らせ(14)」で、2023年1月10日、近所の公園にある河津桜🌸が5輪開花したことを伝えた。その同じ桜🌸の木が今年は1月30日に2輪咲かせた。通常なら見頃は2月半ば。

 小林は書く。

 「花はさくら、桜🌸は、山桜🌸の、葉あかくてりて、ほそきが、まばらにまじりて、花しげく咲きたるは、またたぐふべき(匹敵する)物もなく、うき世のものとも思はれず……」

 筆者は桜🌸の「浮世のものとも思われず」に惹かれつつ、伊勢物語の業平の歌への返歌である「散ればこそ いとど桜🌸は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき」に物狂おしさを感じるのかもしれない。

 

[出典1  https://kangaeruhito.jp › article

kangaeruhito.jp 十三 桜との契り | 随筆 小林秀雄 - 考える人 池田雅延2017年4月3日(参照 2024-1-30)]