242.軽羹(かるかん)は レシピで作る バルカンは 食材多く レシピ散乱

 

 元外務官僚の宮家邦彦氏は忙しい。世界を駆け巡って安保環境を分析するためである。2022年11月23日から1週間はウクライナの南西にあるモルドババルカン半島のセルビアを訪問し、「ウクライナが守る国」、「セルビアの地政学的重み」についてエッセーを書いている1

 宮家氏によると、モルドバの首都キンナウは、ロシアによるウクライナ電力網攻撃で大停電が起きていた。モルドバの政府高官は、「ウクライナはモルドバを守ってくれている」と述べている。セルビアの首都ベオグラードは古代から欧州の東西と南北の道路の交差点であり、諸帝国がこの地を通り世界の覇を競ってきた。セルビア・コソボ紛争はまだ収まっていない。(注 両国は旧ユーゴスラビア)

 1939年、日本政府はイラン皇太子(後のパーレビ国王)の結婚式(5月16日)に参列するため代表団を送った。団長は後に初代海上保安庁長官となる大久保武雄。海軍代表江口穂積海軍少佐。彼らは4月9日に羽田を発ち、5月28日に帰国したが、結婚式後、大久保と江口はベルリンに行き、江口だけは5日ほどバルカン半島を巡った。彼は海軍軍令部の第三部(情報担当)第七課(ソ欧情報)に所属し、ロシア語と英語が堪能だったからである2

 江口が残した報告書3によると、彼はルーマニアの首都ブカレストに入り、ホテル・アテネパレスに投宿した。彼は、「現地にはスパイが混在し、欧州の危機はアテネパレスのバーより生まれると言われるくらい国際的暗躍の渦中にあった」と書く。さらに「イギリスによるルーマニアへの独立保障はジェスチャーでしかなく、ロシアはルーマニアとの軍事同盟説を流布し、ドイツとイギリスはルーマニアへの長期借款を競い、アルバニアを押さえたイタリアがギリシャを狙いつつブルガリアを懐柔し、イギリスはトルコと手を結びギリシャを狙っている」と続ける。

 ルーマニア北西部のトランシルバニア山脈に鉱物資源が豊富なことからも、列国とバルカン半島との貿易総額30億円は、ドイツが56%、イタリアが15%、イギリスが9%、フランスはそれより少ないが、英仏の投資額はそれぞれ20億円に達しているとも報告している。(注 1939年の20億円は2019年の2兆円以上4

 つまり宮家氏が書いた通り、ウクライナやバルカン半島は現在に至るまでずっと大国の影響から逃れることができず、民族自決でも揺れている。

 さて、こうした欧州情勢から極東情勢に目を転じれば、日本の各党及び国会議員は、「島国に利がある」と能天気に信じてはいけない。中国海軍の約350隻5と海警局の約450隻5が日本のEEZに侵入すれば、漁業はおろか海上貿易さえ阻止される。ミサイルだけが国を脅かすのではない。サイバー攻撃もある。揺るぎない外交政策と外交交渉には紛争抑止力も必要である。

 

[出典1 2022年12月1日付け産経新聞『宮家邦彦のWorld Watch』「闘いの悲劇…バルカンの地政学」]

[出典2 拙著『海軍と父と母…絆としがらみ』兵庫 BookWay 2015]

[出典3 軍令部部員 海軍少佐 江口穂積『巴爾幹ノ近状』]

[出典4 https://yaruzou.net › hprice › hprice-calc

日本円消費者物価計算機(参照 2022-12-2)]

[出典5 https://ja.wikipedia.org › wiki › 中国海警局、中国人民解放軍海軍- Wikipedia(参照 2022-12-1)]