159.人の死に 斯くも大きな 差があるか 生まれし時の 光いずこに

 

 2022年9月1日、殺人容疑などで再逮捕された高井凛容疑者が、大阪府警福島署の留置施設で自殺した。彼の容疑は2021年7月に保険金目的で高槻市に住む資産家の女を殺害したというもの1

 被疑者とは法律用語で、捜査機関に「罪を犯したのではないか」と疑われて捜査中かつ公訴を提起されていない者である。マスコミでは被疑者と被害者との混同を避けるために〝容疑者″という言葉を使う2

 被疑者自殺と聞けば、筆者は『ロス疑惑』3で渦中にあった三浦和義を思い出す。三浦が妻とロスアンゼルスに旅行していた1981年8月と11月に事件は起こった。最初はホテルの部屋に1人でいた妻を女が殴打して逃亡した。2カ月半後、2人の男が駐車場にいた三浦夫妻を銃撃した。彼は足を打たれただけだったが、彼女は頭を打たれ、その後死亡した。

 殴打事件の犯人は三浦の愛人だった。この事件では三浦も愛人も日本で実刑を受けた。

 銃撃事件では妻への保険金1億5千5百万円が3社から三浦に払われ、保険金殺人ではないかと疑われた。東京地裁は三浦を有罪としたが、高裁は証拠不十分無罪とし、最高裁でも2003年に無罪となった。なお、保険会社3社が返還訴訟を起こし、敗訴した三浦は2社に8千万円を返還し、もう1社とは和解している。

 これで事件は解決したと思われたが、殴打も銃撃もロスアンゼルスで発生したので、ロス市警は2008年に三浦を訴追した。殺人罪については日本での一事不再理が認められたが、殺人の共謀罪が認められ、彼は10月10日にロス市警の留置場に入れられた。この時捜査当局は三浦を被疑者とする同市で発生したもう1つの殺人事件で逮捕状請求を考慮していた。それは1977年から1979年まで三浦が交際し、1979年に遺体が見つかり、1984年に身元が判明した女についての事件である。こうした背景が理由かもしれないが、10月11日、彼は留置場内でシャツを使って自殺した。享年61歳。同事件の真相は明らかになっていない。

 ここで筆者は1つの事実を指摘したい。1981年から2008年までの27年間、日本の捜査当局とロス市警が費やした時間のことである。限りなく黒に近い被疑者の自殺により、すべての労力が無駄になった。今回の大阪の事件でも1年もの捜査が被疑者高井の自殺で無駄になった。両被疑者は面倒なことを避けるため安易に死を選んだのだろうが、理不尽な犯罪は斯くも多大な損害を社会に与える。彼らの人生の幕引きは不名誉被害者の無念だけを残す。

 さて、2022年9月6日、エリザベス女王は公務としてトラス新首相を任命されたが、2日後の9月8日(現地時間)96歳の天寿を全うされた。

 人の死について、作家のロルフ・ヴァン・デル・ウインドは次のように書いている。(筆者による翻訳)

 「あなたの目に光る愛、あなたが取り除いてくれた私の苦悩、あなたがくれたすべてのものが今の私なのです。2週間は嵐がもたらす雨のようには過ぎ去ります。さようならは言わないで。離れるとも言わないで。なぜって、私はあなたの心の中にいるのだから」

“The love in your eyes, the pain you took from me, and everything else you gave me is all I am now. Two weeks will rush by like raindrops in a storm. Do not speak of goodbyes, do not mention distance because, in your heart, I stay.” ― Rolf van der Wind

 

[出典1  https://www.asahi.co.jp › webnews › pages › abc_

【速報】高槻市資産家殺害 養子の高井凜容疑者(28)が ...(参照 2022-9-9)]

[出典2 https://ja.wikipedia.org>wiki>被疑者

被疑者 - Wikipedia(参照 2022-9-9)]

[出典3 https://ja.wikipedia.org>wiki>ロス疑惑

ロス疑惑 - Wikipedia(参照 2022-9-9)]

[出典4 https://www.goodreads.com>quotes>tag>departure

Departure Quotes - Goodreads(参照 2022-9-9)]