16.居眠りは 束の間だけか AUW 148は 奇跡の渡米

 

 「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん)たった四はいで夜も寝られず」とは江戸時代末期に詠まれた狂歌である。上喜撰とは上等なお茶☕のこと。1853年(嘉永6年6月3日)、米国のペリー提督黒船4隻を率いて横須賀の浦賀沖に来航した1。この歌はそれに慌てた江戸幕府を皮肉っている。

 筆者は誰でもがこの狂歌を学校の歴史の時間に習っていると理解していた。 ところがこの狂歌は「明治人の作ではないか」との説が30年ほど前から出され、最近では殆どの教科書から消えているらしい。

 2010年、斎藤純元専修大講師が書簡を見付けてその説を反証した。横須賀市が発行する研究誌📘「開国史研究第10号」によると、書簡は1853年(嘉永6年)6月30日付けで日本橋の書店主、山城屋佐兵衛が常陸土浦の国学者色川三中に宛てたものであり、その追伸の形で当該狂歌が記されていた2

 さて、2021年8月13日、霞が関の住人に寝耳に水の外電が入った。「アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが、同国第2の都市カンダハルと第3の都市ヘラートを制圧した」と3

 その前の7月8日、バイデン米大統領は8月31日までにアフガニスタンから米軍を完全に撤退✈させると発表していた。外務省が邦人に個別接触し、改めて早期退避を呼び掛けたのは8月初旬から4

 8月15日、タリバンは首都カブールを陥落させた。8月24日、日本政府は自衛隊のC2輸送機🛬1機とC130輸送機2機をアフガニスタンに出発させた。8月26日、C130輸送機1機が日本人1人と米国から依頼されたアフガン人14人だけを近隣国に運んだ4。自衛隊の3機は日本人など約500人の退避希望者を運ぶ予定だったが、タリバンの検問テロ発生のため、出国させることができなかった5

 後になって当時の不手際を非難するのは容易 (Monday morning quarterbacking) である。従って日本政府の対応についてはこれ以上触れない。

 アフガニスタンからの脱出についてだが、関美和氏のエッセーを引用する6。(注 紙幅の都合で筆者が編集)

 

 バングラデシュのチッタゴンに全寮制のアジア女子👩大学(Asian University For Women-AUW)がある。10年ほど前に設立され、今では周辺18カ国から900名の女子が学んでいる。そのほぼ全員が、いわゆる「第一世代」と呼ばれる、家族の中で初めて高等教育を受ける女子である。私(関)は設立当初から資金💵集めのお手伝いをしてきた。……。この2年間、コロナ禍でキャンパスと寮が閉鎖され、全員が故郷の村でリモート学習💻をせざるを得なかった。……

 アフガニスタンからは毎年数十名の学生が米国政府の奨学金を受け、同大学で学んでいる。その数は卒業生を含め148名。タリバンが首都カブールを制圧した(8月15日)の翌週、148名全員がチャーター便✈で渡米した。米国政府が臨時ビザを発行したからである。私達はこの出来事を「AUW148の奇跡」と呼ぶ。

 

 奇跡はある時ある場所で何の兆候もなく、降って湧くように起きはしない。多くの人の関与があってこそ可能になるものである。

 

[出典1 https://ja.wikipedia.org>wiki>黒船来航 - Wikipedia(参照 2022-4-12)]

[出典2 https://www.kanaloco.jp>ニュース>社会 教科書から消えた風刺狂歌「泰平の眠りを覚ます上喜撰」| 神奈川新聞 | 2010年7月6日(火) 11:17(参照 2022-4-12)]

[出典3 https://www.reuters.com>article タリバン、アフガン第2の都市カンダハルを制圧 ヘラートも陥落(参照 2022-4-12)]

[出典4  https://www.mofa.go.jp>mofaj>files アフガニスタンからの邦人等退避に係る経緯(9月1日まで)(参照 2022-4-12)]

[出典5 産経新聞電子版 2021/9/3 10:17『アフガンから自衛隊機戻る 入間基地に到着、撤収命令で』(参照 2022-4-12)]

[出典6 原子力文化 2022年4月号『世界を見渡せば』 AUW148の奇跡 p.10 関美和 翻訳家・杏林大学外国語学部准教授