タイトル くもをさがす

著者 西 加奈子

出版社 河出書房

出版年 2023年4月

 

内容・所感 著者が2年の期限付きでカナダのバンクーバーに一家で移り住んでから間もなくのこと。胸のしこりを感じてはいたが折からのコロナもあり受診をしていなかった。ある日 足に大量の赤い斑点を発見。カナダの受診システムに翻弄されながらもようやく医師にみせた。その時に他に何かあるかといささかめんどくさそうに聞かれたが胸のしこりを相談。そこから「これは」となりあちこち受診や検査を経て 正式に乳がんの診断となる。

この本は その顛末について書かれている。著者の中では「日記」も同時進行でつけていて 「つらい」というような掃き出しはそちらでしており 詳細な治療の経過の記載はあるが単なる闘病記ではない。自分を俯瞰し 目の前の人に語るような感じで書いたとのこと。それは 作家を生業としている著者としてはとても有益な行動だったよう。

 

それにしてもカナダの医療ステムが複雑。ファミリードクターの制度があるが いつでもすぐに受診できるわけでは無い。緊急の場合は救急でかかる。その病院でもトリアージをするので4~5時間の待ちは当たり前のよう。今回の西さんのような場合も 検査のためにはまずファミリードクターの紹介状が必要なのだ。そして遺伝子検査の結果 再発の可能性が高い事がわかり両胸の切除となったが 手術の当日退院している。これは現地の友人も驚いていたのでそこまで当たり前ではないのかも。

そういったシステムの事だけでなく 言葉の問題もあり 現地の友人にかなり頼っていた。

もともと友人の多い性格でアウトドア活動などが好きなこともあるのかもしれないが カナダでの友人も多数おり その人達が食事をかわりばんこに運んでくれたり 息子を預かる日をつくってくれたり 車で送迎してくれたり移民の国というのもあるのかもしれないが出来ることを出来る人が惜しみなくするという感じがある。

 

西さんにとって家族が何物にもかえがたい。当たり前だけど 息子さんの存在は大きい。がんと分かり治療に迷いが無いのもとにかく生きていたいからだと思う。

タイトルになった「くも」は蜘蛛のこと。カナダの家では祖母の身代わりで守り神のような気がして特に駆除をしていなかったそう。その蜘蛛が病気が早い段階で見つかったきっかけになっている。

 

西さんがそもそもカナダに移住したのは息子にとって 有害な広告(セクシャルな刺激のものなど)等が視界に入らない環境を用意したかったからと。またその間夫は大学に通っていたのも 子どもがいながら息子に不安を与えず治療に専念できた。

 

作家さんって読書をすごくされる方が多い。西さんもそう。本の中にはその時なのか 過去の中からなのか明確な記述は無かったが その時々にふさわしい 本の言葉の引用が紹介されていた。