その犬に名はなかった
短いロープにつながれ、
散歩も知らず、
何年も雨ざらしの日々を送っていた犬がいた。
保護されて、
海辺の町の一家に迎えられ、
「はな」という名をもらった。
散歩に連れて行ってもらうのを
見た人はいない。
そばには糞が積み重なり、
餌皿は、犬からは届かぬ場所に
ひっくり返っていた。
雨が降ってくると、
犬は自分で掘った土のくぼみで丸くなった。
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保護猫のNPO活動をしている夫妻とで
出向いていき、
飼い主の男性がつむじを曲げて
犬を捨てたり処分したりしないよう、
下手に出て申し出た。
「その犬がとても気に入ったんですけど、
譲ってはいただけないでしょうか」
「いいよ。だけど、そいつ、
年寄りでもう立てないよ」
と言う飼い主に、
犬の名を尋ねたが、
「名はない」
という返事だった。
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この先、
たとえ奇跡が起こらなかったとしても、
確かなことがひとつある。
愛らしい名をもらい、
一日一日を、人間や猫の家族と共に、
まるごと愛されて過ごす「はな」は、
この上なくしあわせな犬である。
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