もう何度も読み返している、梨木香歩さんの「裏庭」
昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた――教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。
正直に言うと私には非常に読みにくいです。
現実社会の部分はとても入り込みやすくて好きなのですが、主人公の照美が迷い込んだ「裏庭」での部分がすごく読みにくい。
登場人物や場所が、なかなか絵として浮かんでこないのです。
なので今まで読む時も結構、裏庭部分は飛ばして読んでいたりしたのですが(^^;
今回初めてしっかりじっくり、時々立ち止まって考えたりして読みました。
それでも私はなかなか理解できない面が多く、しかし登場人物の名前がとても気になったので、調べて下にまとめてみました。
「名前」が語るもの
このお話で名前が重要な役目を担っていることは、主人公の名前が「照美」=テル・ミィTell Me(教えて)という意味を持ち、裏庭への入口と関係あるところからでも察することができます。
そして、それ以外の登場人物たちはどうでしょうか。
私は今まで読んでいた時、裏庭の住人達の名前について、特に注意をはらっていませんでした。
あまり美しい響きとはいえず、適当に付けたのだろうと思っていました。
ですが今回じっくり読んで、これだけ深いテーマの中でこんな風変わりな名前は必ず意味があるだろうと思って調べてみました。
コロウプたちの名前
裏庭の住人(?)コロウプ。
彼らは人ではありません。そして通常双子で生まれ、片子になったコロウプは忌まれます。
ツガとチガヤ
ツガ(栂)・・・福島県以西の本州、四国及び九州に自生するマツ科の常緑針葉樹。山地の急斜面などに多く、同じような場所に分布するモミノキに似た大木となる。一般家庭での植栽は稀であり、公園や神社の御神木などに使われる。
チガヤ・・・、単子葉植物イネ科チガヤ属の植物である。日当たりのよい空き地に一面にはえ、細い葉を一面に立てた群落を作り、白い穂を出す。かつては食べられたこともある、古くから親しまれた雑草である。
ビャクシンとキリスゲ
ビャクシン・・・ヒノキ科の針葉樹の1属。ネズミサシ属とも呼ばれる。
宮城県から沖縄までの太平洋岸沿いに分布する常緑針葉樹。東南アジアに広く分布し、朝鮮半島にも見られる。
キリスゲ・・・ナキリスゲのことでしょうか。、単子葉植物カヤツリグサ科スゲ属の植物である。
本州中部以南ではごく普通のスゲであり、広い範囲に生育している。
名前は菜切り菅の意で、葉がざらつくので、菜っ葉が切れるほどだというのだが、実際はそれほどでもない。常緑性である。
また、花期が秋である点でも日本のスゲでは数少ない例である。
”ナ”がないところに何か意味があるのかな。
双子のコロウプたちは植物の名前です。
偶然なのか意図的なのか、針葉樹と雑草のコンビですね。
一方で片子のコロウプは、ハイボウ(昔話の「灰坊」)、テナシ(手無し)、そしてコロウプではありませんが「ハシヒメ」(橋のたもとにまつられる橋の神霊)など、民話に基づいていることがわかります。
「職をもつもの」として、貸衣装屋のコロウプが出てきますが、彼らは
カラダ・メナーンダ
ソレデ・イーンダ
という、変わった名前です。これは植物などではなく
「だから、だめなんだ」
「それで、いいんだ」
ですよね。何故そんな名前なのか、私にはちょっとわかりません。
そんな名前の理由は彼らが誰なのか?という疑問の答えだと思うのですが、私には推測できませんでした。。。
一番わからない、その存在
タム・リン
物語後半にいきなり出てくる、妖精タム・リン。
漠然とした解釈では、スナッフの中にいた(または照美の中にもあった)善と悪の「善」の方?と思っていたのですが、照美が名前を叫んだところでスパークして消えてしまったので、その名前には意味があるだろうと調べてみました。
なかなか検索してもヒットしなかったのですが、大雑把なところではスコットランド民話に出てくる妖精の騎士のようです。
『全訳チャイルド・バラッド』の「タム・リン」を読んだ方のブログからあらすじを読んでみたのですが、その内容にはピンとは来ませんでした。
ただ、たまたま興味深い一文を見つけました。
スコットランドの民俗伝承では、子供は地獄へ十分の一税として献上される妖精の子の身代わりに取り替えられたという。これは、『タム・リン』(en)というバラッドからよく知られている。
この一文は「取り替え子」という言葉のウィキペディアにありました。
ヨーロッパの伝承で、人間の子どもがひそかに連れ去られたとき、その子のかわりに置き去りにされるフェアリー・エルフ・トロールなどの子のことを指す。時には連れ去られた子どものことも指す。またストック(stock)あるいはフェッチ(fetch「そっくりさん」)と呼ばれる、魔法をかけられた木のかけらが残され、それはたちまち弱って死んでしまうこともあったと言う。このようなことをする動機は、人間の子を召使いにしたい、人間の子を可愛がりたいという望み、また悪意であるとされた。
取り替え子は、彼らのしなびた外観、旺盛な食欲、手のつけられないかんしゃく、歩行できないこと、不愉快な性格によって識別された。
一部の伝承によると、取り替え子は人間の子供より知能がはるかに優れていたことから、見破ることは可能であった
そして、取り替え子と誤解されたことで、虐待されたり殺されたりした者もいたそうです。
照美の双子の弟、純を思い出します。
ここから、その名前を付けたのかどうかは謎ですが。
以上は雑記であって、ほとんど私のメモでした。
「裏庭」は難しすぎて、深すぎて、私には解釈を書くことができません。
ただ、読むたびに心に残るフレーズが違ったり、その時その時の自分の年齢や環境によって新しい発見のある物語です。