地下水で水道を100%賄っている熊本市で、
井戸水から発がん性の恐れが指摘される
有機フッ素化合物が検出され、
住民に不安が広がっている。


相談や検査の申し込みは計242件に上り、
市の対策チームが調査しているが、
範囲や原因は分かっていない。

農産物に影響しないか心配する声も上がっている。

 

 

農村でなぜ

田畑が広がり、ビニールハウスが並ぶ
同市北区植木町の轟地区。

この農村の井戸水から、
高濃度の有機フッ素化合物が検出された。


「30年近く使っているが、
 まったく気づかなかった。
 体内で蓄積されると聞くと、もう飲めん」

同地区の60歳代男性は5月下旬、
庭に掘った井戸の前で嘆いた。


市の検査で4月末、
有機フッ素化合物のPFOSとPFOAが
国の暫定目標値(1リットルあたり50ナノ・グラム)を超え、
89ナノ・グラム検出された。

両物質を含んだ2リットルの水を毎日飲んでも
健康に影響ないレベルとされるが、
井戸水での煮炊きをやめ、ミネラルウォーターにした。


市の水道に切り替える予定で、
「周囲に工場も何もないのに、
 なぜ検出されるのか」と話した。


 

市は3月末、
轟地区と中央区九品寺の2か所の井戸で、
最大で目標値の2倍強を検出したと発表した。

轟地区では半径250メートルの追加調査で、
12か所で超過が判明した。


最初の2か所の井戸周辺では、
原因となりうる工場などの操業履歴はない。

市は5月10日に対策チームを設置。

半径500メートルまで調査範囲を広げ、
住民への聞き取りも進めている。
数十か所新たに検査する予定。

 

国などによると、地表からの浸透だけでなく、
地下の水脈を通じて広がることもあるという。


植木町は地下水の流れが複雑で、
原因特定には難航も予想される。

市水保全課の古上藤治課長は
「市を挙げて調査をし、
 市民の不安を解消したい」と話す。

 

相談相次ぐ

市には6月6日までに、相談89件、
井戸水の検査申し込み153件があった。

安全が確認されている水道を利用する
住民からも相談が届いている。

井戸水は市環境総合センターで分析しているが、
週24件が限度で対応が追いつかないという。


市には
「栽培で井戸水を使っても大丈夫か」
との問い合わせもあった。

市は
「平均的な食生活による健康への懸念は低い」
とする国の見解を基に、
「問題はない」と答えている。


農産物へのイメージの低下につながらないか、
農家にも不安が募っている。

ある農家は
「どんな風評が上がるか分からない」
と顔をしかめる。

各地で調査をしている
原田浩二・京都大准教授(環境衛生学)によると、
地下水の濃度が数千ナノ・グラムに達した地域では、
作物からも検出されたという。

市内で検出された量は現状、
目標値の4倍の200ナノ・グラムほどとなっている。


原田准教授は
「工場などがない場所では原因の特定は難しい。
 調査を繰り返し、地下水の流れの上流を見ていくしかない。
 同じ有機フッ素化合物でも、物質によって使途が違うので、
 組成も判断材料にする必要がある」

と話した。

 

有機フッ素化合物、人体への影響不明な点多く

有機フッ素化合物は水や油をはじくため、
フライパンのコーティングや泡消火剤などに使用されてきた。


人体に長く残留するが、
健康への影響については不明な点も多い。


国は2021年までに
国内での製造や輸入を全面禁止した。


環境省によると、
21年度に水質調査をした全国1133地点のうち、
13都府県の81地点で目標値を超過した。


発生源が特定されたのは、
工場に由来する大分市の2か所だけという。


同省は対応の手引きに調査法を盛り込むべく、
1月に設置した専門家による会議で議論している。

 

同省は基準値を厳格化した他国の状況も踏まえ、
目標値のあり方も検討する。

 

地下水で水道を100%賄う熊本市、井戸水から有機フッ素化合物…「もう飲めん」住民も:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)