職員が感動した、お客様のエピソードをご紹介する介護物語シリーズ。
今回は、大勢の職員の心に深く残っているご夫婦の物語です。
なお、今まで同様、個人を特定できないよう、多少のフェイク、アレンジが含まれていることをご了承ください。
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さくらの里のデイサービスには、ご夫婦でいらして下さる方もいらっしゃいます。
これまでの16年間で、20組以上のご夫婦がいらして下さいました。
ご夫婦で仲良く過ごされている姿を見ると、職員も思わず微笑んでしまうものでした。
※写真は、エピソードとは関係がありません。デイサービスの日常の一コマです
しかし、A様ご夫婦は、仲良く、という姿とはちょっと異なっていました。
ちょっと失礼な言い方になってしまって申し訳ないのですが…(^_^;)、奥様がとっても強かったんです。
ほっそりとしたご主人に比べ、奥様の方が体格もかなりよく、体重も奥様の方がかなり上でした(重ね重ね失礼なことばかり、本当に申し訳ありません)
奥様は、いつも大声で、怒鳴りつけるような、あるいは命令するような感じでご主人に話しかけていました(重ね重ね…以下同文)
それに対して無口なご主人は、いつもニコニコされていました。
奥様から怒鳴られてもニコニコ。
命令されてもニコニコ。
とっても穏やかな方でした。
デイサービスをご利用される際は、もちろん職員が車で、皆さんのご自宅までお迎えに伺います。
玄関から、場合によってはベッドから車に乗るまでも職員が介護します。
ご自宅での準備を手伝うこともあります。
A様ご夫妻のお迎えの際も、ご自宅の中まで伺っていました。
奥様は、出発の準備にいつもちょっと時間がかかっていました。
ご主人に、あれを持ってこいとか、あれをしろとか、大声で命令して、ドタバタと準備していました(重ね重ね…以下同文)
それでもご主人は嫌な顔一つせず、家の中をコマゴマと動き回っていました。
本当にできたお人柄だな~と、職員は皆感心していました。
奥様は糖尿病を患っており、インシュリンの注射もしていました。
その準備や片づけも、もちろんご主人の役割でした。
しかし奥様は、糖尿病のための食事制限についてもなかなか守ることができず、病気はじわじわと悪化していました。
さくらの里をご利用されて5年目のこと、東京で暮らしているお孫さんがご結婚されることになりました。
奥様は、何としても結婚式に出席したいと言っていたのですが、当初はお医者さんから許可が得られませんでした。
そこで、奥様は初めて本腰を入れて、食事制限と治療に取り組みました。
ただ、それまでの長年の習慣があります。
ついつい、食事制限を破ってしまいそうになると、ご主人が優しく、粘り強く諭していました。
それに対して奥様が「うるさいっ、放っておいてよ!」と怒鳴っても、ご主人は決して声を荒げず、しかし諦めず、対応していました。
ご主人の穏やかな中にも一本芯が通った強さに、職員は皆感動しました。
実は、これこそ本当に失礼なのですが、ご主人はこの生活でお幸せなのだろうかと、職員はひそかに疑問に思っていたのですが、実はご主人も奥様を思っていられたんだなと、感動したんです。
ご主人の努力の甲斐あって、ご夫妻は無事東京のお孫さんの結婚式に出席することができました。
その時の奥様のお顔の輝き、私達は一生忘れられません。
そのようにご夫婦が、仲良く喧嘩しながらさくらの里をご利用されて6年が経過した時、ご主人が亡くなってしまいました。
ご夫婦でご利用されているお客様は、ほとんどの場合ご主人が先にお亡くなりなります。
男性の平均寿命が女性よりも10歳近く短いことを考えると、仕方のないことです。
そして、男性の皆さん、申し訳ありません。
ご夫婦で、奥様が先に亡くなると、残されたご主人が弱っていくことが多いのですが、ご主人が先に亡くなると、残された奥様は時間がたつと元気になられる場合が多いんです。
しかし、A様ご夫婦の場合、ご主人がなくなると、奥様は打ちひしがれてしまい、その後元気を取り戻すことはありませんでした。
そして、一年もたたないうちに、後を追うように旅立たれてしまいました。
亡くなられたのは悲しいことですが、職員は、ああ、やっぱり奥様もご主人を愛されていたのだなと、深く感動しました。
外からどう見えようと、しっかりと愛し合い、強い絆で結ばれていたご夫婦。
自分達もそうなりたいなと職員は皆思いました。
A様ご夫妻は今頃、天の上で仲良く喧嘩していることと思います。ご冥福とお祈りいたします。