大沢作品では、大沢さんの先見性の高さからか、後に描かれた犯罪や事件と似たようなことが実際に起こることがあります。


『無間人形  新宿鮫IV』(1993年)に登場した飲む覚醒剤“アイスキャンディ”は、古くからタイにある“ヤーバー”という麻薬がヒントになっていると思われますが、2000年以降にはMDMAやLSDなどの錠剤タイプの麻薬が流行し、日本でも(某人気女優など)逮捕者が出ました。


また、『アルバイト・アイ  最終兵器を追え』(2004年)では、半グレがATM襲撃に使用するユンボなどの調達を未成年者に協力させる「闇バイト」が描かれていました。

 


長い前フリからの(笑)

今回取り上げる『闇先案内人』(2001年)



主人公は、依頼者を警察や追っ手からガードし、安全圏に脱出させる“逃がし屋グループ”のリーダー・葛原。 


その葛原のもとへ、警視庁の河内山が林忠一という人物を探して欲しいという依頼にやってきます。報酬は葛原やチームメンバー全員の犯罪容疑全てを白紙にすること。


林は某国の次期国家主席候補であり、偽造旅券で日本に極秘入国していましたが、政府は林を拘束もガードもせずに静観する方針ながら、反対派や在日組織とトラブルを起こさぬよう居所は確認しておきたいという弱腰なものでした。


日本での林をサポートするのは成滝という男で、葛原たちが関東を中心にした東の逃がし屋グループのトップなら、成滝は関西を中心にした西のグループのトップ。


“追うもの”と“追われるもの”、大阪〜京都〜東京と次々に舞台を移しながら両者の諜報戦、知恵比べ、腹の探り合い、追跡… ついには工作員や在団特務、警察やヤクザも巻き込んだ壮絶な闘いとなり、“大義”や“愛国心”というテーマに発展していきます。



大沢さんがこの作品の発想に8年を費やしただけのことはある、超大作です。

通常のミステリーであれば、まず作家は完璧なアリバイやトリックなどのシチュエーションを用意し、主人公がそれを突き崩して行くのがスタンダードであり、推理や考察の受け手であるシチュエーションは変動することはありません。


しかしこの作品の受け手側は定まることなく変化や移動、ステージチェンジを繰り返していきます。

そこがまた面白いのですが、作家(大沢さん)にしてみれば何作ぶんもの労力をつかったことでしょう。



この作品が発売されたのは2001年9月。

その数ヶ月前の5月に、当時の北朝鮮の最高指導者・金正日の長男、金正男(正恩の兄)が、偽造旅券で日本に密入国しようとして成田空港で拘束されるという事件が発生しました。


金は1990年代からたびたび日本に密入国していたようで、この時は外交問題は発展を恐れた日本政府により国外退去処分にするだけに留められ、VIP待遇の特別機で強制送還されました。


発売こそ事件の後になりましたが、大沢さんの先見性の高さにはつくづく驚かされます。

混迷する某国の大統領選や、どこかの国の首都知事の選挙の未来も、大沢さんに予想してもらいたいですね(笑)