大沢作品の中で、最もハードボイルドなキャラクターといえば、『ザ・ジョーカー』(2002年)と『ザ・ジョーカー 亡命者』(2005年)の主人公、ジョーカー。



ジョーカーは六本木・飯倉片町のバーをオフィス代わりにする男についた渾名であり、男は着手金百万円で探偵のように人探しもすれば、殺人以外の依頼なら何でも引き受けるトラブルシューターでもあります。


「仕事はしごくまともだが、やり方がまともでないことに定評がある。もちろん、そうした評判がたてばたつほど、仕事の方は増えこそすれ、減ることはない」


これはファーストエピソードである『ジョーカーの当惑』からの抜粋ですが、このトラブルシューターという設定の“寄る辺なき”感は、私立探偵以上。

作品の舞台設定が昼間であっても、ジョーカーの世界は常に夜〜深夜のイメージを持っています。


ジョーカーという名前の由来は

「トランプの七並べで、繋がらない数と数のあいだを埋めるのに使う。使ったあとは用がない。そこに捨ておかれるか、別の人間が使う」(同じく『ジョーカーの当惑』より)


「ジョーカー」という名前は、悪役や厄介者的な意味で安易に使われているケースが多いなか、この理由付けには結構シビレました(笑)


けっして本名を明かすことはなく(森尾という偽名はありますが)、元傭兵であること、初代ジョーカーのアシスタントを経て、二代目ジョーカーを襲名したことは明かされていますが、何故傭兵になり、何故帰国し、何故アシスタントになったかも明かされていません。


ハードボイルドの定番、「私」という一人称で物語は進行し、描かれるのはバーのマスター・沢井や依頼主との会話、ジョーカーの行動と手に入れた情報のみで、私生活は一切描かれていません。


クールでニヒルな(本当にそんな人間が居るのかは疑問ですが)ジョーカーですが、依頼主が同じマンションの住民で、秘密を守らせるために着手金を半額にしたり、アバズレなJKが起こした事件に巻き込まれてタダ働きをしたりと、“トラブルシューターマシン”のような男に浪花節的な人間臭い一面や優しさを見せたりします。

そのさじ加減が実に上手い。



ジョーカーシリーズは完結という形をとっていませんが、現在はこのジョーカーに“トラウマ”と“特殊能力”と“女性”という要素を加えた、「水原」が活躍する『魔女』シリーズ(2006年〜)があるため、おそらく続編はないかと思います。


『魔女』シリーズが好きな方には、その原点ともいうべき『ジョーカー』シリーズの一読をオススメします。















物語が「私」という一人称で語られる、ハードボイルドの定番