『北の狩人』(1996年)の主人公・梶雪人は、秋田県警捜査一課のエースといわれる刑事で、祖父から狩人としての血を引き継いでいました。


マタギとは、古くは北海道・東北・北関東・甲信越地区の山間部において、独自の道具や方法を用いて狩猟を行う者の呼称で、雪人の故郷である秋田県北阿仁町の阿仁マタギが有名です。


現代は専業で狩猟を行う者は少なく、上記の地域において猟銃を使用して狩りを行う者を指しているようです。



マタギの歴史は平安時代または鎌倉時代から始まるといわれ、名前の由来はアイヌ語の「マタンギ=冬の人」か「マダンギトノ=狩猟」が訛ったという説。

東北地方で狩人を意味する「山立(ヤマダチ)」が訛った説。山でマタの木(シナノキ)の皮を剥ぐ人から来ている説。鬼よりまた強い者という意味で、「叉鬼」と呼んだ説などいろいろあります。



マタギの活動時期は冬〜春の始めにかけてで、明治時代以降のマタギは、夏季には農業や出稼ぎ仕事と兼業としていました。


獲物とする動物はクマ、カモシカ(現在は禁猟)、ニホンザル、ウサギなどですが、高額で取引されるクマが主であり、猟銃が登場する前はマタギ槍、マタギ熊槍といった武器やトリカブトの毒を塗った弓矢を使用していました。


(左がマタギ槍、右がマタギ熊槍。写真はウィキペディアより)


(明治時代に使用されていた村田銃)

近代では猟銃を使用するのが一般的で、「巻き狩り」という狩猟方法では、リーダー役(シカリ)、合図役(ムカイマッテ)、追い出し役(勢子)、鉄砲役(ブッパ、ブチッパ)の大人数が山中に散らばり、クマを包囲して仕留めます。

雪人が「クマをブツ」というのは、ブチ(またはブチッパ)が語源と思われます。


また、「シノビ猟」(単独、または少人数でクマの足跡を追い、仕留める方法)。「穴熊猟」(巣を探し、冬眠中のクマを仕留める方法)などがあり、猟銃を使わない「ヒラオトシ」(圧殺式の罠を仕掛けて仕留める)という方法もあります。


雪人が口を割らない男を脅す際に使っていた、じっちゃ(祖父)からもらったという短刀「ナガサ」もマタギの道具です。



これは刃渡り6〜7寸(18.21cm)の鉈に似た片手用の山刃で、マタギが大型獣にトドメを刺す際に使用するもの。
これは獣の皮を剥いだり、料理をする際の包丁としても使用していました。

猟は日帰りがほとんどですが、数日に渡る場合は、山中にバラック小屋のような拠点を作ったり、長期間になると「マタギ宿」といって近隣の住宅を間借するケースもあったそうです。

捕獲したクマは「ケボガイ」という儀式を行って解体され、収穫は携わった者に均等分けされていました。


古来より山の神は女性であるといわえ、マタギは長く女人禁制(神様がヤキモチを妬くため)でしたが、近年は緩和されつつあり、クマ狩りを行う女性ハンターも居るそうです。