大沢作品では、実在する人物をモデルにしたキャラクターが何人か存在します。

主人公側でないことが大半ですが、今回は3人取り上げてみます。


『東京騎士団』(1985年)

主人公の鷹野は、敵対する「超十字軍」の幹部・王寺を拉致することを計画。

文化人タレントである王寺は取り巻きやボディガードが居るため、ある作家を王寺に見立て、計画を練ります。


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その作家の顔を見つけた。理由もないのに、やたら凄んだ目つきとふくらんだ頬が特徴的だ。

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これは大沢さんの先輩であり、盟友でもある小説家・北方謙三さんがモデルと思われます。


(1988年頃の北方謙三さん)

北方さんは1947年生まれで、1970年に学生作家としてデビュー。
当時は『逃れの街』や『友よ、静かに冥れ』といった作品が映画化されて話題となり、主に深夜の情報番組のコメンテーターとして引っ張りだこの頃でした。


『アルバイト・アイ  誇りを取り戻せ』(1991年)

ひょんなことから赤ん坊を拾ってしまった、主人公のリュウは、赤ん坊を探す一味に拉致され、アジトに監禁されます。

リュウの前に現れた一味のボスは、きちんとなでつけた白髪にてかてかとした顔(作品より)の老人でした。


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僕は息を呑んだ。爺さんは、テレビで幾度も見たことのある顔だったのだ。

確か名前は是蔵豪三。戦前の修身教育を復活させ、日本も軍隊をもつべきだ、とか、親孝行して火の用心とか、時代錯誤が洋服を着て歩いてるようなことを並べたてている爺さんだ。

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これは、おそらく大正〜昭和の右翼活動家・笹川良一氏がモデルと思われます。


(当時の笹川氏出演のCM)

笹川氏は1899年生まれ(1995年没)
競艇の創設に尽力し、日本船舶振興会々長、反共主義団体の国際勝共連合の名誉会長などを務め、「競艇界のドン」「政財界の黒幕」の異名をとった人物。
「戸締まり用心、火の用心」「一日一善」の財団CMに自ら出演されていましたが、競艇の私物化がマスコミから批判もされていた人物でした。



『烙印の森』(1996年)

凄腕の殺し屋・フクロウを追う、主人公のメジローたちチームは、フクロウがターゲットにしている男、高津をガードすることで、フクロウに接触しようとします。


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高津京一は、アダルトビデオといわれる、成人向けポルノビデオ界では名の通った男だった。

自らスカウトした女優と自分がセックスする姿を、監督する、というスタイルで作品を発表していた。そして一度撮った女優は、二度は撮らない、というのが、高津の売りだった。

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これはおそらく、AV監督であり実業家の村西とおるさんがモデルと思われます。



村西さんは1948年生まれ。

百科事典のセールスマンやアダルト産業の実業家を経て、1984年頃からアダルトビデオ業界に進出。「ナイスですね」など独自の話術とリアル志向で、創世記の業界で成功を収めますが、他の事業の失敗などで巨額の負債を抱えて倒産します。


以降さまざまな事業に取り組み、2000年以降は再びメディアに登場。

評伝作を元にした映像作品『全裸監督』がNetflixで公開されたりしました。



今回は御三方にご登場いただきましたが、私が知らないだけで他にもそういったキャラクターが居るかも