大沢さんといえば『新宿鮫の!』『狩人の!』と、重厚な警察小説をメインとする大作家… みたいなイメージが年々強くなっていく気がします。


大沢作品にはコメディアクションやブラックユーモア溢れる作品も少なくありません。

古くは『アルバイト・アイ』シリーズ(1986年〜)、近年では『俺はエージェント』(2017年)『熱風団地』(2021年)などがありますが、今回は『極悪専用』(2015年)を取り上げます。



主人公の望月拓馬は、夜の世界でのやんちゃが過ぎたために、裏社会の大物である祖父を怒らせ、強制的に祖父の会社が所有するマンションの管理人助手を命じられます。


そのマンションは要塞並みのセキュリティシステムを持ち、高額な家賃さえ払えば誰でも入居でき、住民のプライバシーは守られます。


結果、入居者は「殺し屋」「詐欺師」「逃亡者」「ギャング」といった極悪人ばかり… そして、口を大きく裂かれた傷を持つ、一癖も二癖もありそうな管理人の白旗。


初日から「見慣れない顔だ」と入居者からナイフを突き付けられたり、ゴミ集積場に投棄された人間の片腕の処分を命じられる拓馬。


逃げ出せば祖父の部下に殺される、真面目に仕事をしていても、いつ殺されるかわからない。

祖父との約束は1年間。しかしこれまでの管理人助手の最長生存期間は3ヶ月半…



入居者がマンションの前で対戦車ミサイルで車ごと吹っ飛ばされても「うちの敷地内じゃないから、関係ない」と言い切ってしまう、管理人の白旗。


優しげな微笑みで「アメ食べる?」と、毒入りの飴玉をすすめてくる老婆やら、謎の整体師など、入居者は奇人変人罪人のオンパレード。


物語冒頭では、鮫島に叩きのめされそうなチンピラであった拓馬が、ここでは実にまっとうな青年に見えるところが笑えます。



全編コミカルながら、大沢流ブラックユーモア全開の世界。


主人公が異次元の世界に戸惑いながらも、次第に適合していく姿は『アルバイト・アイ』シリーズ(1986年〜)のリュウ君を思い出し、「コレコレ、このノリ!」と手を叩きたくなります。

 

本人たちは大真面目なのに、読者から見れば(いい意味で)アホな出来事の連続。難しい謎解きも、きめ細やかな心理描写もありません。


頭をカラッポにして楽しめる作品が読みたくなったら、是非どうぞ!