1979年、当時22歳の大沢在昌さんが第1回小説推理新人賞を受賞。

受賞作である『感傷の街角』がデビュー作として発表されました。


主人公は大手法律事務所に所属する調査員で、失踪人捜索を担当する佐久間公。


20代の彼は若者の感覚・心情・行動を理解することに長け、ベテランの調査員にはできない調査方法をとることもあります。


短編『スターダスト』では、どうして探偵になったかと質問され、「仲の良い連中はマヌケと罵ります。ガールフレンドはお人好しだと。自分では正義の味方のつもり」と彼は答えています。


キザでオシャレ。音楽と女性が好きで、遊ぶ街は六本木。

少々生意気で、軽口と時には嫌味も吐く。

口だけでなく腕っぷしもそこそこ強い、そしてそれ以上に精神的にタフである。


そんな彼を、大沢さんは自分の分身かのように愛しました。


主な登場人物は、彼の上司である徳山課長、関西の大物のご落胤との噂のある、悪友かつ情報提供者でもある沢辺。

そして恋人の悠紀。



1982年にデビュー作を表題とした公が活躍する短編集の『感傷の街角』が発売され、1985年に同じく短編集の『漂泊の街角』が発売されます。
佐久間公を主人公とする短編は2冊で13本ありました。



話が前後しますが、1980年に発表された大沢さん初の長編作となった『標的走路』も、佐久間公が主人公でした。



1986年には長編『追跡者の血統』を発表。


ここでは公の父親も調査員であったことが、徳山課長から明かされます。


また、恋人の悠紀がヨーロッパへ留学したまま音信不通になっていることや、沢辺の妹である羊子との出会いなど、シリーズの転換期を予想させるものでした。



しかしそこから10年の空白期間。

久しぶりに帰ってきた公の一人称は

「僕」から「私」に変わっていました。



1996年に発表された『雪蛍』では、公は既に早川法律事務所を退所し、沢辺が理事長を務める財団が経営する麻薬患者の更生施設「セイルオフ」のアドバイザーとして静岡に居る設定となっています。


そしてその10年の間に羊子と結婚し、飛行機事故で彼女を失っていました。


『雪蛍』では施設を抜け出した男を探すべく、数年ぶりに六本木を訪れ、街の変わり様や自分が若者の気持ちが分からなくなっていることに愕然とします。


この作品で公は「探偵は職業ではない、生き方だ」という境地に達し、セイルオフに籍を起きながら探偵業を再開することになります。


その4年後の『心では重すぎる』(2000年)で失踪した人気漫画家を探しだした後、再び空白期間。



佐久間公が大沢さんの分身である限り、いつか必ず帰ってくると信じていました。



そして2020年、小説現代3月号にシリーズ最新作「無辺の夜に生きる」を発表。


還暦を迎えた公と、財団の理事長を辞任した沢辺は、引退をほのめかしつつ最後の調査に乗り出します。


この号では物語の導入部のみ発表され、翌年に全文公開と予告されていますが…

現在のところ未発表のままとなっています。