リスタート症候群【悲しい話】 | 瑞目叶夢の小説【台本】置き場

瑞目叶夢の小説【台本】置き場

エブリスタで掲載中の小説の中でもSpoonで声劇や朗読台本として使っていただいても問題ないものを置いています
小説として読むだけでも良いですし
使っていただいてもいいです、使っていただく場合は、聞きたいので教えていただけると助かります

気が付いたら私は雪降る夜の公園でベンチに座っている、そこが公園というもので降っているのが雪というもので座っているのがベンチだと言うことは何となく思い出せた。けど私の記憶は真っ白だ、私は誰でここはどこなのだろう

「大丈夫?」

ボーとしていると男の人に声をかけられる。
見ればとても一般的な男性だと思う、得に突出して目立つようには見えない男性

「気がついたんだね」

「あの、私をご存知なんですか?」

私がそう聞けば彼はニコッと笑って私のベンチの隣に少し距離を開けて座り、私の手を取って缶ジュースを持たせた。暖かな缶ジュースはココアと書かれている。

「ひとまずこれ飲んで、喉乾いてるでしょ、とても泣いていたから」

たしかに喉は痛いほどに乾いているし顔もなんだかカピカピする気がする、ツーと瞳に残っていた涙が流れて私は目覚める前に泣いていたのだと知る。
とりあえず私は頂いた缶ジュースを飲む、温かく柔らかな甘さが優しく私を癒やす、ぱっと私は親友の|弥那《やな》を思い出す

「弥那………」

「今回は弥那が先かぁ」

男性の言葉に振り向けば男性はニコッと笑って説明してくれた。

男性は|首藤 快《すどう かい》、私と弥那と弥那の旦那さんとその子供と一緒にシェアハウスをしているらしい、弥那は、私の親友で弥那の旦那さんである|俳侍《はいじ》さんは快さんが親友だとか、
そして私はリスタート症候群と言う病気になっていて、ある条件を満たすと記憶がきれいサッパリなくなってしまうらしく、それを心配した弥那が弥那家族と在宅ワークの快さんを巻き込んでシェアハウスをしているらしい、それは迷惑なのでは無いだろうかと思いながらシェアハウスに帰ると、弥那は笑顔で受け入れてくれて、気にするなと食事を用意してくれた。

「雅ちゃんおかえり」

弥那のそばにいた女の子が私に抱き着いてくる

「|七三《ななみ》は雅ちゃんが大好きなのよねぇ」

弥那がそう言うと七三と呼ばれた女の子はニコッと笑う

「七三は何回忘れられても雅ちゃんが大好きだよ!」

その愛情のこもった顔に忘れたことを申し訳なく思う


「忘れてごめんね」

「大丈夫だよ!だって忘れっぽい雅ちゃんの代わりにみーんなが雅ちゃんを覚えてるから!」

子供の眩しい笑顔に私はこんな私を受け入れてくれる場所に嬉しくなってまた目頭が熱くなった。

私は一般就労は難しいのでb型支援事業所と言う一般就労の難しい人が就労訓練をする場所で1時間200円ほどのお給料で軽作業をして生活に足りないお金は障害者年金で賄っているらしい。
私の事務的なお金事情などは快さんが管理してくれてるとか、長い付き合いで弥那と俳侍さんも結婚しているので、私と快さんも式などはしていないが籍だけは入れて、事務作業をしやすくしているらしいと聞いた時は、こんな私のせいで一生を決める結婚なんてさせてごめんなさいと謝ったが、快さんは快さんで恋愛に興味のない人間だからどんな理由でも身を固める相手が居たほうが親も安心するんだと言うのだ、
そういう意味では苦労があってもとても助かっているから大丈夫だと私の頭を優しく撫でて言った。

なんだかそれが照れくさくて嬉しくて、私はお礼を言った。

それから半月経つ間にそれぞれの夫婦の両親がこのシェアハウスを訪れ七三ちゃんをどちらの夫婦の両親も孫のように可愛がり、私にまた初めから頑張ろうねと微笑んでくれた。
私の周りは本当に良い人ばかりで恵まれてるんだなと私は嬉しくなった。

職場もまた記憶を無くしたのだと聞いて嫌な顔せず最初から仕事を教えてくれた。

本当に優しい環境、素敵な人達

少しづつ思い出す私の記憶も暖かい、まだ小学生くらいの時の記憶しかないけど少しづつ思い出してる。
私が特に思い出したいのは快さんの記憶、いつも優しくて、私の事を大事にしてくれる快さん一つ上の大学の先輩だとか、優しい彼に私は全てを押し付けているのに毎回忘れてしまって申し訳なく思う。
私には何もない、特に美しいわけでもなく、頭がいいわけでもない、運動も平均だし、歌もさほど上手いとは言えない、けど私の思い出した歌を口ずさむと快さんは嬉しそうに聞いている。
七三ちゃんも近寄ってきてもっと歌ってとねだって来て一緒に歌ってる。
パパとママの思い出の歌なのと聞いた時は弥那もこの曲好きだったっけと嬉しくなった。

七三ちゃんの誕生日は7月3日、名付け親は快さんだとかで私がそのままねと言うと

「そう!快はネーミングセンスないの!弥那ちゃんと俳侍くんが考えてくれればよかったのに!」

七三の言葉にみんな笑って快君が

「七三は可愛い名前だろー」

と言うと

「漢字がそのまま過ぎだよ!もっと可愛い漢字が良かった!」

と親子のように喧嘩していた。

それが楽しくて可愛くてあーこんな幸せな毎日、忘れたくないずっとこのままがいいなぁと思った。

一年が経とうという時、私はついに高校生の頃の記憶を思い出す、憧れのイケメンで人気の先輩を弥那と追いかけていた日々、まるで先輩はテレビに出ているアイドルのように輝いていたが、アイドルと違うのは自由恋愛で、バスケ部の先輩は女バスの先輩と付き合ってしまって、二人で泣いたものだ、

この頃になると気がつくのが、七三ちゃんの絵とかは飾られるが、この家には写真という物を飾っていないし、アルバムもどこにも見当たらない

「快さん、どうしてこの家には写真がないの?」

私が快さんにそう聞けば、リスタート症候群はある思い出を思い出すとまたリセットされる病気らしい、だがらできるだけ記憶を思い出す事を遅れさせるために写真や動画などは無いらしい、

それは七三ちゃんに申し訳ない、私のせいで思い出を形に残せないなんて、と・・・・
思っていた。

ある日、
みんな仕事や学校で誰もいないシェアハウスに帰った日、リビングを掃除していて気がついた。
棚の奥にもう一つアルバがある棚が隠されていて、鍵をして大事に保存していた。

見たいと思った。同時に忘れる事の恐怖が襲った。
楽しい毎日、忘れたくない、ぐっと我慢して私は部屋を出て、別の場所を掃除することにした。

そうして楽しいヒビを過ごして、また夏が来た。
今回は長く覚えてるらしい。
今日は弥那と俳侍さんが仕事になってしまったという事で七三ちゃんを遊園地に連れて来た。

「パパとママじゃなくてごめんね?」

私がそう言うと七三ちゃんは迷ったように目を動かした後、ニコッと笑う

「弥那ちゃんと俳侍くんより二人の方が好き!」

それは二人が傷つくよーと言いながら遊園地に笑いながら入って行ってたくさん楽しんだ。たくさん楽しむ中で少し思い出す大学生の頃

暑い夏の日に弥那と一緒のサークの先輩達と遊園地に行った。その中に快さんも俳侍さんも居た。
今日と同じように楽しくアトラクションに乗った。
4人は気があって昔から仲が良かったように楽しんだ。

遊園地の帰り道の公園でまた思い出す
快さんと帰る道、繋ぐ手、重なる視線


あぁ

あぁぁ!!!

止まった私の異変に気がついた快と七三がさっと私を公園のベンチに連れて行く。

「ママ」

潤んだ目で見てくる七三、

そう七三は………
私と快の子だ………

強く七三を抱きしめる。
そんな私を快さんが抱きしめる。

「大丈夫、大丈夫だから」 

「いや!忘れたくない!忘れたくないよ!やだ!忘れたくないよ!」

次々思い出しては白紙になって逝く

初めてのキスも、思い出の歌も、プロポーズも、4人で買ったあの家の内装を楽しく決めたことも、リスタート症候群の私のために7月3日に生まれた七三に七三と名付けたことも、子供のできない弥那と俳侍君が七三を実の子のように育ててくれてることも、5人で作った思い出も、消えては増えた思い出も、消える前の思い出も何もかもが白に染まって逝く

「ママ大好き、ママって呼べなくても大好きだよ」

七三の声に子供のように私は泣く、忘れたくない、忘れたくない

リスタート症候群
愛忘失反復症
愛が深い人がなりやすく、記憶喪失から始まるが愛した人のことをまた愛す、
付き合っていた記憶を思い出すとまた記憶喪失になりまた付き合うを繰り返す、愛が終わると発症しなくなるリスタート症候群

無理だよ愛が無くなるなんて無理だよ

愛してる、愛してるのに!忘れたくないのに!

「忘れたくないよ!」

「俺達がずっとそばにいるよ」

ぷつんと何かの糸が切れるように私の意識は遠のいた。





気が付くと私は公園のベンチにいた。

隣には女の子が赤くした目を擦ってニコッと笑う

「雅ちゃんおはよ、今ね、快が飲み物買いに行ってるから待ってね」

「雅?それは、私の名前?」




こうして私は繰り返す



【この病気は架空のもので存在はしません】