東京電力福島第1原発の事故の影響で、九州の電気料金も値上がりする可能性が出ている。九州電力が被災者への賠償支援の一翼を担えば「料金転嫁は不可避」とみられるためだ。一般家庭に電力会社や電気料金の選択肢はなく、値上げは家計を直撃する。2000年度に導入された「電力自由化」の恩恵に、なぜ一般家庭は浴せないのか。そのカラクリは-。
電力の自由化で小売り事業に新規参入した特定規模電気事業者(PPS)の最大手、エネット(東京)の谷口直行経営企画部長は「電力会社と同等の条件で電力を仕入れられれば、電気料金はもっと安くできる。それには送配電利用料が下がらないと」と話す。
同社はNTT関連会社と東京ガス、大阪ガスの3社が共同で設立。PPSの届け出をした全国46社の中で、同社は総販売電力量の50%以上を占める。九州でも、福岡市立の小、中、高校の3分の1に当たる79校や鹿児島大学(鹿児島市)などで契約している。
PPSは原則として自前の発電所で発電し、電力会社の送配電網を利用して契約者に送電する。自家発電設備を持つ企業から余った電力を仕入れる場合も多い。電力会社には送配電網の利用料を払う。
一般にPPSの電気料金は電力会社に比べて最大で10%超安いとされる。谷口部長は「人件費や広告費などの販売管理費の割合が電力会社に比べて低いため」と説明する。例えば九電の広告宣伝費は「年200億円は下らない」(地場広告業界関係者)という。
九電によると、今年5月現在で九州内のPPSの契約数は1651件。出力ベースで約11万世帯分に当たる計33万キロワットにとどまる。割安にもかかわらず、なぜ普及しないのか。1つには、自由化の対象が1口の契約電力50キロワット以上に限られ、電力需要の小さい一般家庭向きでない。
次に、電気料金の10-20%程度を占める送配電網の利用料が、割高に設定されていることが大きい。加えて、一般に電力各社がPPSに電力を融通することはないため、PPSの電源は限界がある。従って24時間電気を使う工場などに供給するには不利になる。
九電などの電力各社は、電力消費量などの情報を双方向性の通信回線で即時にやりとりする新型メーター「スマートメーター」の導入を進めている。普及すると、電力の需給状況が分かりやすくなってPPSの参入が進むとみられるほか、発電所の運転調整とつなげて太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用も加速すると期待されている。谷口部長は「競争が進めば、利用者にとってサービスも料金もよくなっていくはずだ」と話している。
=2011/05/23付 西日本新聞夕刊より=
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