【永遠に美しく…】美と若さに取り憑かれた女達 | maiのブログ

maiのブログ

主に映画や小説、ゲームの感想などを語るブログです。

【永遠に美しく…】についての感想です。
この作品は1992年に製作されたアメリカ映画です。
監督はロバート・ゼメキス。主要キャラ三人はブルース・ウィリスに、メリル・ストリープゴールディ・ホーンと、ものすごく豪華であるのにもかかわらず、中身はかなりオバカなブラック・コメディです。

ゼメキス監督のお家芸でもある、特撮技術を駆使しての、ビックリするほどシュールでグロテスクな戦闘シーンが一番の見所です。
思いっきりラストシーンに言及していますので、どうぞご注意ください!


!!以下、作品の内容に触れています!!


・「永遠の美と若さ」が得られる秘薬を口にした女達の末路
この映画のあらすじは、こうです。

学生時代から何かにつけて張り合ってきたマデリーンとヘレン。女優になったマデリーンは、著名な整形外科医、アーネストと結婚したことを自慢に来たヘレンが許せず、アーネストをヘレンから略奪、自分の夫にしてしまう。
時は流れ、忍び寄る老化のせいで、今や見る影もなく落ちぶれているマデリーンの前に、輝くような若さと美しさを保ったままのへレンが現れる。どうしてもヘレンの美と若さの秘訣を知りたいマデリーンは、秘密めいたクラブから「とある秘薬」を購入することに成功するが・・・


永遠に美しく、若くありたい!」というのは、女性ならば誰もが抱く願望でありましょう。
若かった時でさえ、美しかったことなど一度もない私でさえ、「老いること」が怖くてならない時期もあったのですから、元々美貌に恵まれている人なら、その思いは尚更に切実なものと思います。

この映画は、その「美と若さへの執着」が、行き過ぎてしまった女達を強烈に風刺する物語ですが、この映画に老化を気にする女性達のアンチ・エイジング的な努力を嘲笑う意図は全くありません。
そのような懸念は、この映画のダブルヒロイン、マデリーンとヘレンの、「行き過ぎっぷり」を観ていただければ、吹っ飛んでしまうものと思います。


・マデリーンとヘレン、二人の「怪物」
あらすじを見ていただければ分かるように、 ヒロインのマデリーンは、ロクなもんじゃありません。ライバルの幸せが許せず、相手を傷つけたい一心で、好きでもない男を略奪して結婚するなど、スガスガしい程のクズっぷりです。

結婚相手を奪われ、心身の健康を損なうほど傷ついたヘレンは、映画の冒頭こそ被害者風ではありますが、その本性はマデリーンと似たり寄ったりだということが、後に判ってきます。マデリーンより先に「秘薬」を口にすることに成功したヘレンは、今度はお返しとばかりに、老けたマデリーンに若さと美貌を見せつけて自慢し、かつて自分の夫になるはずだったアーネストを再び誘惑して、今度はマデリーン殺害をそそのかすのです。

ここで、二人の女性の間で右往左往する哀れな男、アーネストをブルース・ウィリスが演じています。二人の女達は、アーネストを奪い合い、誘惑し合うものの、その動機はあくまでアーネストが「相手の男だから」であり、アーネストへの愛など、どちらにも毛程も存在しません。あくまで、「相手に勝ちたい」という、くだらない女の争いに、アーネストは巻き込まれているだけなのです。

アーネストは、この映画ではとことん「優柔不断で、情けない男」を演じてはいますが、 マデリーンとヘレンという「怪物」に比べれば、まだ良識があり、マデリーンと結婚した事も、一応マデリーンに愛を感じての事だったようです。

しかし、自己中心的なマデリーンにふりまわされ、老化を止められないことで整形外科医としての腕さえもなじられ、鬱憤をぶつけられる日々を送るうちに、その夫婦仲はとっくに冷え切っていました。
それでもヘレンの甘言をなんとかふりきったアーネストですが、その後マデリーンと口論になり、はずみでマデリーンを階段から突き落としてしまいます。

明らかに変な方向に首を曲げたまま、ピクリとも動かなくなるマデリーン。アーネストはパニックになりますが、実はその時既に、マデリーンは「秘薬」を飲んでいたのです。


・「秘薬」に隠された罠
マデリーンとヘレンが大金と引き換えに手に入れたこの「秘薬」。
リスルという謎の美女が、秘密クラブのような場所で密かに客に販売しているものです。

この秘薬、飲むと確かに肌に張りが戻り、垂れたお尻もキュッと引き締まり、バストも盛り上がって、見た目からして明らかに若返ります。まさに夢のような、素晴らしい効果の薬なのですが、使用に当たって遵守しなければいけない厳しい条件がありました。
それは、「くれぐれも自分の身体を傷つけたりしないように」という事です。

マデリーンは薬を飲んだ矢先に、早速この誓約に背いてしまった事になります。
果たして秘薬を口にした人間が、「肉体を損傷し、あまつさえ肉体的に死んでしまった場合」、一体どうなってしまうのでしょうか?
さあここからが、ゼメキス監督のSFXを駆使した演出の本領発揮です!


・映画史上稀に見る、女同士の壮絶バトル
パニックを起こすアーネストの背後に、ムックリと起き上がるマデリーン
首をありえない方向に曲げたまま、何事も無かったかのように再び怒鳴りはじめます。アーネストは蒼白になります。マデリーンは、自分が死んだことにすら気付いていない!

そう、この「秘薬」は、「例え肉体が死んでしまっても、その若さだけは永遠に保ちつつ、永遠に死ぬこともできない」薬だったのです!

そこに、アーネストの首尾を確認しにやってきたヘレン。
彼女はマデリーンに即座に悪巧みを見抜かれ、猟銃でお腹のド真ん中を撃ち抜かれてしまいます。
これで、ヘレンの肉体もアウトです。

しかし、ヘレンもムックリと起き上がり、「ひどいわ、穴が空いちゃったじゃないの!」的な文句を言い始めます。
首がグラグラ状態の女と、腹部に大穴が開いて向こうが見えている女の、壮絶なバトルの開始です。積年の恨みつらみを晴らさんと、怒鳴りあい、罵り合い、スコップで殴りあい、リスルの忠告も忘れて、お互いの身体をさらに損傷させていく二人。

このシーンは本来かなりグロイものであるはずなのですが、あまりにもあっけらかんとした肉体損傷描写には陰湿なものは無く、かえって笑えるくらいです。マデリーンの武器による攻撃が、ちょうどヘレンの腹部の穴に入ることによって無効になるシーンなどは、かなりシュールなギャグで、個人的には大好きです。

いくら戦っても、相手は死なず、お互いの肉体が傷ついていくだけだということにやっと気付いた二人は、休戦し、和解協定を結んで、今度は死んでしまった肉体を保持するために、アーネストの整形外科医としての腕を利用して今後暮らしていこうと意気投合します。
あまりに醜く恐ろしい、ゾンビ共の戦いを目の当りにして、すっかり怯えてしまったアーネストは、「協力するから、今後二人とも、僕に固執するのは辞めてくれ!」と哀願します。

二人はあっさりと承諾します。元々、二人ともアーネストに愛情なんか無かったのですから、あっけらかんと「いいわよ」「構わないわよね?」と、仲良く顔を見合わせる始末です。
生涯かけて一人の男を奪い合っておきながら、この図太い豹変振り。このスガスガしい程の自己中心っぷりが、この二人の怪物の最も恐ろしい部分かもしれません。


・まだまだ続く、二人の悪巧み
二人の肉体に防腐処置を施し、損傷した部分は「修理」して、なんとかそれなりに外見を整えてやるアーネスト。
アーネストは元は整形外科医でしたが、現在は葬儀屋でいわゆる「死化粧」を行う仕事をしており、その技術で二人はそこそこの外観を保つことができました。
しかし、もしもアーネストが死んだら、自分達のメンテナンスをする者がいなくなってしまうことに気付いたゾンビ女達は、アーネストにも「秘薬」を飲ませる計画を思いつくのです。

ここからは、「秘密クラブ」を舞台に、アーネストに秘薬を飲ませるためのドタバタが始まりますが、この部分は正直それ程語るべきシーンはありません。アーネストが断固「秘薬」を飲むことを拒否し、二人の「怪物女」に飼い殺しにされるよりは、死を選ぶ程の覚悟を見せた、ということだけが伝われば大丈夫と思います。
この騒動で、マデリーンとヘレンは、アーネストという唯一のメンテナンスマンを失い、さらに秘密クラブから追放されてしまいます。


・一応テーマらしきものもあります
ラストシーンは37年後。実は密かに生き延びて、別の女性と結婚し、大勢の子どもや孫に見守られて天寿を全うしたアーネストの葬式に、マデリーンとへレンが参列しています。
腕のいいメンテナンスマンを失った二人は、さながらひび割れたマネキンのような顔にラッカーを塗りたくり、遠目から見ても異様な姿。満足に歩くこともできない程、ミイラ化した身体をギクシャクさせています。

牧師が言います。「故人が言っていました。永遠の青年でいる秘訣は、あそこにいる子供達や孫達の中で永遠に生き続ける事だと・・・」

おそらく、この部分が、この映画のテーマらしきものだと思われます。
しかし、私は断言してしまいますが、このテーマはあくまで体裁で、監督が一番やりたかったことは、単に「徹底的に肉体を損傷させるシーンを描くこと」だったんじゃないかなと推測します。だってそこのシーンだけ、異様に魅力的で、この映画で一番面白い所だからです。

彼女達にとって最大級の皮肉を聞きながらも、「よくあれだけ嘘っぱちが並べられるわね」等と悪態をつきながら、その場を去るマデリーンとヘレン。何十年もたってるのに、まるで反省していません
しかし二人はこの後階段を踏み外し、もはや修復不可能なまでに、バラバラに砕けてしまいます。
ゴロンと転がる二人の生首。しかしその状態でも二人は死ねず、顔を見合わせ、言うのです。
「車、どこに停めてたか憶えてる?」