【ステップフォード・ワイフ】完璧な妻しかいない理想郷 | maiのブログ

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【ステップフォード・ワイフ】についての感想です。
この作品は2004年に製作されたアメリカ映画です。
1975年に製作されたハリウッド映画「ステップフォードの妻たち」のリメイクだそうですが、こちらは未見です。

原作は「ローズマリーの赤ちゃん」等で有名なアイラ・レヴィン。ホラーというよりは、ややコメディに近く、気軽に観られる作品ですが、主題はかなり風刺的で、個人的には恐ろしい作品です。
この作品については、ネタバレせずに語るのは難しいので、この後オチを思いっきりバラしています。どうぞご注意ください!


!!以下、作品の内容に触れています!!


・理想郷、「ステップフォード」に隠された秘密とは?
この映画のあらすじは、こうです。

美しく整備された郊外住宅地、「ステップフォード」。現在失職中のキャリアウーマン、ジョアンナとウォルターはこの町に引っ越してくるが、この町の妻達が皆、貞淑で美しく、家事もカンペキなのに驚く。
この町には「紳士クラブ」があり、大歓迎を受けてウォルターはご満悦だが、元々あまり家庭的ではないジョアンナは他の妻たちとはなじめず、この町に何か不自然なものを感じ始める・・・


主人公のジョアンナを演じるのはニコール・キッドマン。「元キャリアウーマン」という設定にふさわしく、黒のパンツスーツをビシッと着こなして町に到着するのですが、ここ「ステップフォード」では思いっきり浮いてしまいます。
ここに住む女たちは皆、パステルカラーのワンピースを身にまとい、お洒落も家事も完璧。いつも微笑みを絶やさず、「夫を喜ばせること」を生きがいに家事に精を出す女性ばかりです。

家庭的な女性を好む男性にとっては、天国のような町かもしれませんが、これはあまりにも不自然。後にこの町のスーパーマーケットで、この町の女性たちが買い物をするシーンが出てくるのですが、皆同じようなファッションに身をつつみ、皆同じような微笑を浮かべ、ショッピングをする様は異様で、コミカルに描かれていながらも、この町がなにかとんでもない秘密を抱えていることが伝わってきます。


・オチはかなり冒頭で明かされます
この町に住む女性たちが皆、いわゆる「完璧な妻」であるのは何故なのか?
その秘密は、かなり早い段階で明かされます。つまり、製作者も、そこをあまり隠す気はないということです。

結論から言ってしまいますが、この町の女性たちは、頭に「チップ」を埋め込まれる手術をされており、いわゆる「ロボット」化されていたのです。
えっ、そんなSF的なオチなの?と驚かれるかもしれませんが、この町は家庭的な雰囲気を残しながらも、かなりオートメーション化されてたり、ロボット犬なんかも出てきたりしていて、かなりメカニカルな部分で発達した世界観だということは冒頭から一応見せてあります。

この町の女性たちは、実は皆、元はジョアンナの様に、バリバリのキャリアウーマンばかりだったのですが、そんな「強すぎる妻」に疲れた夫達が、「男性クラブ」に集って、自分の妻を密かに「自分好みの女性」に改造していた、という話なのです。

「ステップフォード・ワイフ」はリモコン式で、どんな命令にも従いますし、不平や不満を言うこともありません。下世話な話になりますが、性的な欲求にも思うがままに応えてくれますし、中には「キャッシュ・ディスペンサー」代わりにされている妻まで出てきます。(口から現金を言うがままに出してくれます)

チップ一つで、肉体までロボット的になるのはオカシイといえばオカシイですが、まあそこまで、この町の男達が妻の「人間性」を踏みにじっているといるということを強調して表現していると考えることができると思います。


・男達の好みが皆一様なのはおかしい?
「ステップフォード・ワイフ」達の外見は、皆さながら「バービー人形」の様です。誰もがブロンドに髪を染め、皆ふわっとしたスカートを身につけています。

前述したスーパーマーケットのシーンといい、ここまでこの町の男達の「理想の妻像」が一致するのもオカシイといえばオカシイのですが、もしかしたらチップの性能の限界で、今のところ「可愛らしく家庭的」タイプにしか改造できないけど、いずれはもっとニーズに合わせて、多様性のあるチップが開発されるはずだったのかもしれません。(「ツンデレ」とか、「妹タイプ」とか・・・)

もしもそうなったら、と思うと、そっちの方が私にとってはホラーです。我々「現実の女性」が、「ステップフォード・ワイフ」に叶うわけがないからです。

生身の人間である以上、不平や不満も言ってしまうことはありますし、相手の要求に100%応えてあげることも不可能です。もしも、この世の男性が、「ステップフォード・ハズバンド」ばかりだったとしたら、少なくとも私なんかは、彼女らに対抗できる手段が思い浮かびません。我々生身の女性は、自我があるが故に、「リモコン操作」される事には耐えられないし、ただ言いなりになることもできないからです。


・妄想を現実にすることの恐ろしさ
このあらすじを読んで、もしも不愉快になった男性がいらしたら、ごめんなさい。正直この物語は、少々男性を悪者に仕立て上げている節はあると思います。

一応、この「妻をロボットにする計画」の、発案者兼黒幕は、実は女性で、「古き良き、理想の夫婦像」を体現する為に夫をロボット化し、「理想郷ステップフォード」を作り上げていたという、ある意味でのエクスキューズも最後に明かされます。配偶者に「理想像」を押し付けていたのは、男性だけではない、というフォローだと思います。

この物語は、「生身の人間に理想を押し付ける」ことの残酷さを描いているものと思われます。
100%自分の言うことを聞いてくれる相手を求めることは、相手の人間性を踏みにじることであり、ロボット化することと同義なのだということを説いているのだと思います。

ところでネット上では、この「ステップフォード・ハズバンド」的発言が、かなり見受けられます。所謂、「女は三次元より二次元に限る」的な意見です。
とはいえ、そういう発言をする方が皆、本気で「ステップフォード・ワイフ」を求めているという事には、直結しないと個人的には考えます。

だって、どんな人だって、生身の人間よりはロボットを相手にしていた方が、楽に決まってるからです。
だって相手は何を言っても怒らず、傷つかないのですから・・・

そこに男女の差はないはずです。男も女も、「自分だけの理想の異性像」はあって、それが現実に叶わないと知っているからこそ、「妄想」としてそれを語るのだと思います。「妄想は自由」であり、私はそれは「悪いものではない」と個人的には考えます。

例えば、自分の恥にならない程度に自分の妄想を語るなら、私には「理想の執事」願望があります。絶妙のタイミングでお茶を持って来てくれたり、自分が歳をとっても「お嬢様」と呼んでくれる、セバスチャンという執事がいたらいいなあ、という願望です。
その場合、私はセバスチャンに不平や不満を言う人間性を望みませんし、エスパー並みにこちらの気持ちを読み取ってくれる能力を期待します。この願望と、二次元のキャラクターに理想を投影する事との間には、何ら差はないものと考えます。

何でも言うことを聞いてくれる、理想の異性」を妄想することは、「空を自由に飛びたいな」と思うことと同じくらい、他愛のない、罪のない事と私は考えます。(あくまでそれが、「妄想」にとどまっているうちは、ですが・・・)

本当に恐ろしいのは、「妄想」それ自体ではなく、「妄想を現実化しようとする行為」そのものです。

例えば、もしもこんなチップが販売されたとしたら、その誘惑に抗える人間はどれくらいいるでしょうか?
そしてもしも、人類がロボットとしか付き合えなくなったとしたら、まず間違いなく、この世界は滅びると私は思います。

理由は様々考えられますが、まず「子どもを育てる事」ができる人間がいなくなると予想します。
赤ん坊ほど、思い通りにならない存在はありませんからね。100%こちらが我慢しなければなりません。ロボットに慣らされた人類は、まず間違いなく、子どもを放り出してしまうことでしょう。

・・・それとも、「ステップフォード・ベイビー」を開発して、案外存続していったりして。