前日になったらやめようか、と言い出すのではないかと期待半分であった母の熱闘墓参り。

前日になると、さらに行く気満々となったらしい。

炎天下の昼前には、仏花を買いに行くとひとりで出かけようとして、兄を慌てさせ、
慌てたまま、兄が車を出し、いつものホームセンターの花売り場へ連れて行くと、母はそれほど迷わずに数束を購入してきたという。

長年のお墓参りへの鍛錬の成果? であろうか。
夕方、実家でご対面した3つの花束は、ワタクシが普段選ぶよりも確実に仏花仏花している。
90歳、無駄に年をとったわけではないと、母に向かい柏手を打ってあげたくなった。

 

しかし、この使命感、一体どこから湧き上がるのか、の昭和ヒトケタなのである。

そんなにお墓参り、大事なの? 

こんな酷暑のど真ん中なのに、と何度も叫びたくなる不届きな娘なのである。

 

今回、名付けた熱闘墓参り大作戦。

ワタクシが前日に実家に泊まることにして、朝7時半には旅立ち、帰宅は11時前、そんな計画をヨロヨロとたてていた。

前日の夜には、母の大好きな洗濯をすませ、熱中症対策グッズやお墓セットを用意する。

何となく完璧。

用意周到にこだわる性格なので、この段階でかなりパーフェクト感高まりつつも、ぐったりもする。

 

母がベッドに入る直前に、明日は5時半までには起床するよ、と言えば、あたしは毎朝5時に起きている、と立派に答えるのであるが、やはり起きたのは5時半すぎ。

すでに30分のタイムロスである。

頭の中の時系列がぼやけはじめる。

 

兄も母もしっかりとした和の朝食をとるので、朝食の時間は長めとなる。

焼き魚、青菜のお浸し、ぬか漬け、納豆、キムチ、ふりかけ、塩分5%の梅干しが定番でその他に夕飯時の残りのお惣菜を並べるのだが、少食でよく噛む母の食事時間はまったりモード全開。

2か月前に歯医者の医師会から表彰された自慢の歯で、よくよく噛む噛む。

なので、さらにロスタイムは累積されてゆく。

 

食後、すぐさま、大好きな洗濯機の君の元へと行こうと立ち上がる母に、洗濯はもう済ませたので、早く支度をしてくだされ、とつい声高になる。

そんな娘をスルーして、空の洗濯カゴを見ると、キツネに包まれたような表情となり、洗濯物はどこにいったの、と訊かれる。

外に干してあると言えば、また外を確認し、干し方をチェックし、ようやく支度するために2階の母の部屋へ行ってみれば、案の定、昨夜セットしておいた母の作業ウェアセットがない。

ミニテニスで着用している吸水速乾のスポーツウェア上下。

これなら草むしり作業服としていいのではないかと、用意しておいたのだが、やはりやられた。

しまわれた場所を探し出し、薄紺のミズノのウェアを母に渡せば、こんな服ではお墓に行けない、とよそゆきのブラウスと花ガラのキュロットスカートをチョイス。

もう何でも着てくだされ、とこのあたりでぐったりとする娘のことなどおかまいなしに、鏡台の前で優雅に化粧を始める母なのであった。

こんな時に限ってなぜ念入り?

早朝のお墓で草むしるのに、なぜ紅をさす?

 

とにかく、早く出発したい、と全身で母に訴え続けているのだが、紅の次はヘアートリートメントなどをスプレーし、髪のお手入れタイムとなっている。

兄はもうすでに車に墓参りグッズを運び込み、待機の人となっているのだよ、と母にたたみみかけると

「なんでそんなに急いでいるのよ、お墓は逃げないよ」と相変わらずの90歳モードで抵抗する。

果たして、真夏の果実度MAXになる前に熱闘墓参りは終えられるのか。

 

    (次回 熱気むんむん墓参り篇に続く)