事変、といえば日華事変でしょ、のワタクシ。
東京事変や渋谷事変のこともうっすらと思い浮かぶが、やはり事変は日華でまとめたい昔の人なのである。
しかし、母のこの頸椎画像と医師の解説を前に、これからは頸椎事変の時代なのかもしれない、と昔人は思わず己の頸に手をあてる。
驚くべきか、笑うべきか、少し考える時間が欲しい。
頸椎のプロ、かなりの頸椎レントゲンをネットや病院で観てきたが、これほどのものにお目にかかったことがない、とじっと見つめる。
頭を0度とすれば、右10~15度ほど曲がっている、母の七つの椎骨群。
先生を前に、これは本当に母の頸ですか、と思わず訊いてしまった。
お肉がついている後姿の頸はまっすぐなのに、中は傾いている。
しかも、よーく見ればプロ的に頸椎C1~C7がちょっと足りないような。
が、先生はさほど驚くこともなく、椅子をターンさせ、母に向かい合うとじっくりと説明を始めた。
「まず、左の鎖骨に骨折の跡がありますね」
「右に結構傾斜しているけど、これは生まれつき、そうなんだね」
「首のバランスを取ろうとして胸椎も湾曲気味かな」
「真上、向きづらいでしょう」
生まれつき?
なんで生まれつきってわかるの?
89歳と11カ月ずっーと右に傾いていたの?
と心の中の疑問だらだらに封印をしたまま、ふたりで、先生のお話にじっと耳を傾ける。
「頸椎の4番と5番がくっついてるけど、これも生まれつきだね」
生まれつき、また?
「他はどうかな」と言いながら、色んな角度のレントゲンを母に見せながら、専門用語を砕きに砕いて、母に向かってしっかり説明してくれる。
高齢者だと付人に向かって説明する医者が多い中、ちょっと違って、ちょっといい。
「うーん、6番と7番も前から見るとくっついてますね」
これは生まれつきじゃないの?
前から?
ふたつの椎骨が洗濯ばさみみたいになってる???
で、それはまずいのでしょうか、と訊けば、それは特に病変ではない、とのことなのである。
生まれつきなので、それなりに体が成長したらしい。
それなり、といえば、今や138㎝38キロ、それなりの体型のような気もする。
で、この頸の痛みはなんですが。
と訊けば、なぜか鎖骨やぼんのくぼあたりを触診し始める。
頸、というより左の鎖骨周りが硬くなっているのと、胸が開いてないので首に負担が出ているんだね、と言った後、なんとマッサージタイム、となった。
医者のマッサージ、ほとんど見たことないかも、のプロ、目がダンボとなる。
しかも、長い。
10分ほど施術をしてもらった母、なぜか満足そう。
再び右向け左、左向け右、腕上げ下げ、などなど色々チェックしていただき、89歳だけどまだ先がありそう、と希望を持ってしまいそうな母のほっとした表情。
特に処方する薬もないね、と言われ、いくつかのマッサージを伝授され、痛みがひどくなるようなら、また来てくださいね、で終了。
結局、老化現象というお沙汰と理解し、特に大きな病変もなかったわけだよね、とほっとし、ふたりで大銀杏のイエローマジックを眺めながら帰宅したのであったが、ふと浮かんでしまった、訊き忘れたことが。
生まれつきってどうしてわかるの、先生 ?
このまま、年越せない気分の頸椎プロなのであった。