それ、は突然やってきた。
それ、は深夜に響く謎の音「きゅっ」。
集中して耳を澄ませば、時間経過とともに、「きゅっ、ん」と変化しているような。
一体、おぬしはどこから発生する音なのじゃ、と怯えつつも、何となく江戸時代になっているワタクシを尻目に、夫が天井付近をそっと布団叩きでつついたり、タンスの裏を覗いたり、空気清浄機やファンヒーター、部屋にある設置物付近を探索し続けている。
時間はもう夜中の1時近くなのに、眠気はすでに吹き飛ばされている。
その合間にも「きゅっん」音は定期的に繰り返されていて、くるよくるよ、そろそろくるよ、と宣言すると、予想通りに「きゅっ」とひとなき。
ぬしよ、こやつはいつまでも続きそうな「きゅっん」だと思われる、と武士言葉で夫に勝ち誇ったよう訴えるものの、なんの解決にもならない。
今年はカメムシも異常発生しているらしいし、生物たちの生態が変化して、もしかして、新種の虫の音色なのではないか、などと馬鹿な発言ばかりしていて、体を動かさず、無駄な指示だけする妻なのである。
夜中なので、掃除機は近所迷惑と、箒を持ち出し、タンスやラックの裏に何か隠れていないか、とすりすりするものの、生物らしきものは何も見当たらない。
このまま、24時間「きゅっ」ですか、と半ばあきらめつつある夫は明日の仕事のためにもう寝ます、の態勢に入りつつある。
最終手段のダメ元でネット検索をしてみようか。
怪しすぎる検索ワード、「家から音、キュッ」。
ええーっ、結構、ヒットするではないか。
いたんだ、お仲間が。
ヤフー知恵袋、深夜にもかかわらず、中々頼りになるなぁ、と頭を下げるものの読んでいるとちょっとコワイ回答がありすぎでまた眠気がブーメランとなる。
家コウモリ、ムササビ、ハクビシン?
まさか、天井裏にコウモリさんが?
そんな羽ばたき音、してないよね。
これも違う、あれも違う、の説を蹴落としながら、もしや、この定期的がキーポイントかもしれないと、検索ワードに定期的に、を追加する。
いくつかの候補が出てきて、あっ、これかもという言葉をついに発見した。
天井付近にあるそやつ、そやつではないか、とすでに寝、の態勢に突入している夫を
容赦なく揺り起こし、背筋を伸ばしてそやつをふたりでじっと見つめる。
あっ、うすーく、ランプがちらちら点滅しているな、と夫。
あっ、それっぽい、それであってほしい、とワタクシ。
それの取説、あったはず、とまたまた取説を探しに隣室へ行く。
ありましたよ、の取説を読めば、ビンゴ、の感じ大なのである。
そう、なんと、そやつの正体は火災報知器の電池切れによる音、なのだった。
電池が切れると、定期的に50秒ごと、ボタンを押して解除しても、18時間後にまた鳴ります、と書かれている。
しかし、電池切れの音にしては大きすぎるよのアルソック製。
「火事です、火事です」ピーピーピー、のその音より電池切れの音の方が鮮明で響きすぎるような。
取り外してみれば設置してからすでに10年以上経過の火災報知器で、すでにアウトの状態であった。
翌日管理会社が新品を取り付けに来たのだが、もうきっとこの電池切れの音を二度と聞くこともなく一生を終えるであろうことは間違いない。