眠る前の隙間に読む石垣りんのエッセイ集「朝のあかり」。
詩人のつけたそのタイトルに惹かれて、手にしたもののなぜか一気に読む気になれず、フィルムを巻き戻すようにひと晩に3つか4つ拾い読みしながら、気づけば読み終えていた、そんな一冊。
大正生まれの石垣りんの前に、彼女とほぼ同世代の武田百合子の「富士日記」を読んでいたせいか、昭和初期のあんな人やこんな人の人生を沢山読んだような気分になってしまった。
石垣りん、その名の通り、淡々とした生活に結び付く詩を書く人、教科書みたいな生き方をした人、清く正しい表情の人、そんなイメージしかなかった彼女が日常のあれこれの小さなささくれに囲まれて生きていたことを知る。
14歳で働き始め、人生のいくばくかを家族のために生きてきた彼女の「朝のあかり」は、ひとつの許されてもよい贅沢ではないかと家人に呟く。
消し忘れた灯りが休息の砦、そのささやかな抵抗が心に落ちる。
収録されている71篇は、詩人というより職業婦人としての感性で、短くまとめられていて読みやすい。
転寝しながら読んでいても昭和の香りに包まれたまま目覚め、懐かしさに包まれたまま、また暮れてゆく、そんな読後感も味わえて、季節の変わり目にほどよい文量の作品なのであった。