散歩の途中で響き渡る鐘の音。
45分前、防災無線で約束の時刻に流されるそのサインへのしめやかな説明を聞いていた。
目の前は赤紫の海原で、数年前に見つけた秘密の花園。
今年はこの場所で黙祷をしようと決めたのは、先週からホトケノザとフグリが満開となっていたからだ。
一面の赤紫、そして、その手前に青紫の群生。
秘密の場所に行くには、荒れた細い畦道と古びた用水路を渡るので、ほとんど人影はない。
そのはず、なのに、この日は違った。
10人ほどの人が散在して、ほとんどの人が北の空を見上げている。
2時46分、鐘の音が響き渡るのと同時に、そこにいる全ての人が北に向かい、こうべをたれ、黙祷を捧げていた。
ホトケノザが少し揺れる。
人々の祈りを運んでくれているような季節外れの春風に包まれたまま、再び散歩の歩を踏みしめた。