ベールをあげた花嫁の顔に「えっ」、となるような6編がつまった山本文緒の「ばにらさま」。
読む前に比べ読後感は微妙な味わいのまま。
著者最後の新刊ということで、手にしたときは期待感高まる手触りのまま、とりあえず、お約束のようにこの表紙を眺める。
この妙なお目目の女の子がばにらさま、か。
白くて冷たい恋人、と帯には書かれているので、当然そうなのだろう。
と思いつつ、ちょっと横道にそれた画像が脳内に浮かぶ。
そう、ワタクシにとっての永遠の「ばにらさま」が、浮かんできてしまったのだ。
その名は、雪印のバニラブルー。
幼き頃、初めて食べたカップアイスなのである。
そのお姿とその味わいまで舌先に浮かんできて、舌先の味蕾が、ばにらモードを誘っている。
こんな夜更けに、ばにらかよ、なのである。
無駄知識として、確かバニラレッドもあったのだが、レッドには全く嗜好が震えなかったのを覚えている。
で、本の話なので本筋に戻って、出だしの「ばにらさま」。
なぜか高瀬氏の「おいしいごはが食べられますように」とかぶりそうになる。
「おいしい」の二谷君みたいな人はきっと周りに沢山いる。
本心がどこにあるのかわからない「ばにらさま」みたいな人も、そこのあなたであるかもしれない。
が、ワタクシではない。(本筋とはあまり関係ないが)
ワタクシの場合、誰が相手でも感情はいつもダイレクトピッチングなので、こんなふうに波風立たずの感情セーブができず、後悔の日々ばかりである。
なので、ばにらさまが単純にうらやましい。
このお話、読み終えてみれば、切ないけどあるあるのお話である。
2話目からは怒涛のように読み進められる。
ありふれた日常を別の角度レンズで表現する言葉は、やはり山本氏ならではのもので、読み進み具合は超特急レベルである。
他のお話のタイトルのふりかたにも惹かれつつ、あっというまの読書タイムなのであった。