目指すは卒寿、の母、風呂上りは最早スリープしたパソコン状態である。

先日の夕食メニューは冬定番のお鍋。

5時過ぎから支度を始めたのだが、その時刻に半スリープしたかのような母の行動によろけた。

 

なんとカセットコンロにキンチョールのボンベを装着しようとする母。

よろけた後、久々にのけぞって笑った。

 

それ、赤文字でキンチョール、だよ、おかーさん。そんな季節商材を一体どこから取り出してきたのよ、なのである。

カセットボンベの場所はいつもの場所でしょ、おかーさん。

2週間前、買ったばかりのカセットボンベをいつもの収納棚に置いたのも、あなたでしたね、おかーさん。

そんなちっこい記憶はやっぱり遥か彼方に追いやられてしまったのでしょうか。

 

コンロに置くべく土鍋を持ったまま、さらなる動揺連発銃が老いた母に炸裂してしまい、年だけは重ねただけの、不出来な娘なのである。

 

しかし、連発銃の言葉を浴びせられたものの、ダメージはほぼなく、母はあくまでもいつもの母なのである。

「そーだよね、これ蓋がないから、おかしいなと思ったのよ」と己の所作を分析する。

年の功も十分蓄積され、大抵の言い訳は何となく筋が通っているので、学習ゴコロは全くない。

そんなささいなのだけど、大きなささくれを兄に早速チクりに行ったのだが、この母にしてこの息子あり、のまたまたいつもの兄の一言。

「そういえば、形もデザインもちょっと相似形だよね。なかなかいい線だよね」

そうか、それはまだいいねラインで良しとすればいい、その境地なのか。

 

さて、そんなスリープ母がバージョンアップしつつある、とある日。

今年も恒例、兄の野球部納会旅行のため、宿直(とのい)に登板した妹なのだが、こちらも、風呂上りは似たり寄ったりのスリープぶりとなってきている。

とりあえず、何かあった時だけのためにいる、存在、ただそれだけのお泊りである。

 

わざわざ泊まりに来なくてもいいのに、ひとりでも平気なのに、とこれも恒例のやりとりなのだが、つい先日、家の中で転倒した、という情報を兄から聞き出したばかりで、もしひとりの時、転倒したまま昏倒してしまったら、まずいでしょ、の不安再燃なのである。

去年よりは確実に一歩老化へ前進しているはず。

89歳だもの。いやまだ、88歳11か月だもの。

 

その家中転倒事件の時の様子を詳しく兄から聞きす。

家の中で転倒?

夜寝る前の11時にスリッパを履こうとして、その踵につっかかって、転倒?

らしい。

らしい、というのは兄も目撃してないので母の説明から察するとそうなるらしい。

とにかく、ドンという大きな音が階下でしたので、さすがに何かあったかと

2階から降りてきた兄がフローリングの床に転がっている母を目撃したということであった。

 

でも、この間みたいに顔とか頭はあてないように、腕からついたわよ。

腕の痛みも1日で引いたらしく、そう言ってケロッとしている母。

ついにキンチョールな日々がやってきたか、とさらにキンチョール度マシマシとなったのはいうまでもない。