おかーさん、今何してるの?
玄関脇に移動した柿本人麻呂くんたちを眺めつつ、翌日母に電話する下心ありありの娘。
たわいもない話で母の脳をほぐした後、暇なら、今年も干し柿作ろうか? と、どさくさ紛れに言ってみると、すんなり「いいよ」と即答され、ほっとする。
多分、今年も10コ位と思っているのだろう。
毎年この時期、あんぽさんや市田さんをスーパーで見かけると手にする母なので、干し柿好き、ではある。
ちっちゃい頃から毎年、よく作ったもんだわ、の思い出話満載のまま、電話を切ろうとすると、そうそう、うちにも貰い物の甘柿が一箱あるのよ、と不吉なことを言う。
来た時に半分持って帰って、と当然のように言われ、まさかの人麻呂返しにため息ひとつなのである。
母の知人から貰う柿は、JAなどにも卸している特A級の富有柿である。
大きくて、多分今年もおいしいはずだ。
でも、もうアタシ、今年は、柿、食べたくないんです、おかーさん。
サラダ、焼き柿、ドライフルーツ、と色々なレシピを駆使し、そろそろ消費しきれそうなので、これ以上もらったら、柿、怖くなりそうなんです。
そちらで何とか消費してくだされ、と電話を切った。
そちらで、といっても、兄もほとんど食べない柿。
母がひとりで消費しきれるとも思えず、人麻呂の貰い手を探してみるか、とまたまた脳内が柿色に染まる。
柿色が変色しないうちにと実家へ行ったのは、その2日後。
持参した段ボールを見た途端、玄関先で静止したまま、母、のたまう。
いわく、
何、これ? 全部渋柿?
そう、柿じゃなくて、みかんだったらよかったよね、けど、この箱の底まで柿なのよ、おかーさん。
迷っている時間を与えないよう、早速、干し柿作りのセッティングを完了し、母、皮向く人、娘、ヒモツルす人、となり、二人の共同作業を開始する。
始めてみれば、意外や意外の母の皮むきの速さに、ええっ、速すぎないか、となる。
ヒモツルす娘の前にどんどん山積みにされるヘタ付きの柿。
ヘンケルのペティナイフでノリノリ気分で一気剥きする母。
ちっちゃい頃に戻ってるの?
元々、出刃からノコギリまで使いこなす器用貧乏。
技あり、すぎる母についてゆけない。
娘の労はヒモの両端に柿を結ぶだけの単純すぎる作業だが、30コあたりから疲労感が漂う。
途中から母もヒモツルす人に参加させ、50コを制覇し、湯煎し、52ピンチ洗濯ハンガーにツルすまでの、じかーん、1時間50分。
なんか、意外に速い、と思うのだがどうなんだろう。
圧巻の52ピンチを眺めながら、達成感満喫のふたりの前に立ちはだかる者、ひとりの存在を忘れていたことに気いたのは昼時。
これ、一体誰が食べるの?
2階から降りてきた兄の冷めた表情がかなりの冷凍状態。
大丈夫、冷凍保存でお正月までいける、はずだから。
ね、おかーさん干し柿、好きだもんね、ね、ね、と、母孝行を装う下心ありありの妹にさらに冷めた表情を返す無言の兄。
しかし、この場所、洗濯物の邪魔だよね。
しかも、ここ南向きだから、昼間の気温、干し柿に適してないよね。
まさかの伏兵現る、で母も妹もそっと背を丸め、まさに瞬間干し柿になりそうなふたりなのであった。