「長いお別れ」あたりからポイントの高くなった作家、中島京子。

賞取り作家、の中では近寄りやすい作家である。

1年前に読んだ「やさしい猫」が重すぎて少し距離を置いていたのだが、好みの短編集なら秋の夜長を酔いしれることができるかもしれない、と久々に手に取ってみた。

 

手に取ったのは6篇の短編からなる「オリーブの実るころ」。

まずは、タイトルの「ころ」が何故平仮名なのかと変なところがひっかかる。

やさしい猫の時も優しいじゃなく平仮名だったので、このひっかかりが中島京子を読みたくなる鍵、でもある。

そして、この短編6作とも読み始めればすんなりの、中島ワールド全開。

しかし、どうにも最後の結び目をどこで結んでよいかわからない、という読後感に包まれた。

特に、実はこんなお話あり得そうかもの、「ガリップ」はどこか視点が定まらないまま読み続け、不思議なタイトル「川端康成が死んだ日」は不思議なままの空間が最後まで埋められない。

タイトルの「オリーブの実るころ」はそれなりの着地点が用意されていてほっとしつつ、最後の「春成と冴子とファンさん」でまた混沌として結び目を探していた。

 

ノベライズのような装丁のイラストと色合い。

表紙のイラストの種は3篇目の「がリップ」なのだが、読後にこのイラストを眺めるながら、秋の夜長はある意味、よろよろと老けてゆく、なのであった。