たとえば
昨日みた
沈みそこねた唐突な夕日
影の長さをはかりそこねた
深呼吸ひとつぶんの気持ちに
渡りそこねた橋の名前を
重ねて眠る くる日も くる日も
たとえば
朝と夜の台所
流されてゆく水の音に指をからめ
解凍された命を飲み込むとき
まぶた一枚のゆううつを
洗い流す洗濯機の回想音に
まどろむ命
たとえば
戻りたくなる道
想い出はそこにはないけれど
電線は風にゆれ
つなぎめのない美しい空から
モノローグの面影
もう話しかけなくてもよいように
夢の中にはいつも
おだやかな私