すっかりなめてました、連休前のホームセンターの存在価値を。
5月連休前だけど、平日だから、まだ大丈夫でしょう、平日の昼下がりだし、駐車場などがら空きでしょうと、なめてました、関東最大級と開店当時は大見得を切っていた大型ホームセンターK様、すみません。
屋上の駐車場は遠いのでなるべく地上でお願いしたいものだから、空きを探して、端から端まで何周もする私に隣席の母が「屋上でいいじゃない」と一言。
花の苗をいくつか買いにきただけなのに、屋上まで、カートで運ぶのはちょっと面倒なのよ、おっかさんと言いたいところを我慢して屋上めざしスカイハイウェイへ。

猫の額ほどの実家の庭には、4月になると母の花鉢が並び始める。
南向きではあるが、柵の向こうは元農家の大きな農機具倉庫があり、さんさんとした日差しは望めない。
そのため、地植は数本の低木のみにして、あとはもっぱら日差しを求めて移動しやすいプランターの寄せ植えである。

農家出身の母は土いじりを習慣としているせいか、4月にホームセンターで花の苗が湧き出てくると、農家出身ならではのおかしな寄せ植えの花鉢を増殖させる。
水やりに歩くスペースが奥の細道状態となって、足元に注意が必要となる有様である。
今年はそろそろ体力的にも能力的にも無理ではないかと思っていたのだが、私の顔を見るなり、ホームセンターに行くから車をお願いと言う。

シーズンを終えたビオラやプリムラに変わって違う花苗を買いたいと、朝から決意の人となっていて、ホームセンターの大判チラシを片手に新植プランター計画に余念がない。
面倒なら、いいよバイクで行くから、と早くも外出する気配に慌てて私も出動、ということになった。

五月晴れの平日、昼下がり、店舗の約1/3を占める園芸コーナーの混雑ぶりに唖然とする私のおろおろ状態を尻目に母はいつになく、スタスタと歩き回っている。
恐るべし、植物ヒーリング。
しかし、こんなに広いのに、スムーズに歩けないのは何故? と気の短い私は癒されずにイラっとする。
容赦なく降り注ぐ日差しが老いて乾いた肌をひりひりと痛めつける。
なめてました、5月の日差し。

植木や苗が所狭しと並んでいる園芸コーナー。
見渡す限り、老若男女入り乱れてのカートの群れが右往左往している。
私達の目的である花苗エリアにたどりつくまでに、果樹木や野菜、ハーブの苗エリアがあって、その一帯の群集に目がテンになる。
どこからきたの? あなたたちは。
どこの冬眠から目覚めた種族なの? と問いかけたくなる。

そうこの種族が目指すものは、この時期、花苗ではなく、間違いなく野菜の苗。
苗の選定に余念のないいくつもの双眸が監視人のごとく緑の空気を刺していて、酸素が足りない。
家庭菜園、相変わらず皆さんやっていたのですね、と苗を選ぶ人々にむかってそっとつぶやいていると、母が既に手提げカゴ一杯の苗をさげて私の元へやってくる。
おもむろに私がひきずるカートに苗を移し始めるのだが、それは花びらの「はな」の気配もない緑の葉っぱたちの苗である。
どうやら、母も今、この群集を目にして「花より団子」種族の仲間入りをしたようなのであった。

苗選びの達人として一時期は名を馳せていた母の選んだ苗は「千両ナス」「フルティカトマト」「鈴なりカラーピーマン」にブロッコリー、ズッキーニ、カラーレタスのそうそうたる顔ぶれ。
その苗数ざっと20苗、付け加えて、何を思ったのか「ルッコラ」の苗がひとつ。
ハーブなど料理に使ったこともない母が「ルッコラ」という異色の苗を選んだことにふと不安がよぎる。
「ルッコラ、食べるの?癖のある味だよ」ときくと、微妙な表情で「やめとこうか」とあっさりと返却。
なんだか、ルッコラを選んだというより、間違えていれてしまったような感じが否めない。

予想外の野菜苗の数で、今日は花苗の方はあきらめようとレジに向かう私に「花も買わなきゃ」と母の確かな声。
既に向きを変え、めったに見かけない大股歩きで花苗のコーナーに向かっている。
まさにこの園芸コーナーが秘密の花園のごとく、暴走する老人と化している。
暴走老人の背中を追いながら、これから帰っての植え付け作業のことを考えた途端、体の節々がじわじわと痛み始めてきたような気がする。
この苗数だと在庫の培養土も足りないと言い出して、次は土コーナーへの移動となるのだろうか。
庭の片隅にある土や肥料用の物置の中をきっちり見てくるべきだったなどと、色々な思考があふれ出してとまらなくなる。

実際、植え付けをするのはど素人の私ではなく、手馴れている母なのだから、それほど悩む必要はないのであるが、母の体力はきっと思うように動かない、という段階に入りつつあるので、この苗数だと一人で植え付け、網掛までなど到底一人でやらせることはできない。

農作業、実は私にとっては実に苦手で不向きな作業のひとつである。
ざっと埋めればいいでしょ、的な私の植え付けは全くひどいものである。
しかも、体力もない役立たずの娘のお手伝いは足手まといにも等しく、母の指導が何度も入る。
しかし、今日のこの苗数では、植え付け作業に参加せねばなるまい、と新種の花苗たちをぼーっと見ながらあれこれ考える。

嬉々としてレジ待ちをしている列に並んでいる人々も、今日は夕方から植え付け作業をするのだろうか。
皆さんそんなに買い込んで、どれだけ野菜の生長に時間を割いているのですか、と問いかけたくなる。

そして、結果、恐るべし、ホームセンターの売上高。
購入金額が半端ない人々のお札が飛び交う臨時レジを目の当たりにして、はたして、その金額でどれだけ新鮮な野菜が買えるであろうか、とふと電卓をたたく私なのであった。