かじりかけの青林檎
のど元まで
運ばれた甘酸っぱさで
あなたが静かにテーブルに置く

ふたりの間をそれてゆく
振り出しの音のタクト
向きを変えて
傷をふさぐ私 を掠めてあなたは知らぬふりで
視線にからみつく
ツルバラを
音も立てずに切り落としてゆく
5分遅れの表情

わずかに加速をつけて
透き通るレンズの
甘い香りさえ 二人を横切る
目障りな感触

漣立つテーブルの
白い陶器のひび割れたライン
なぞるような 臆病な誘い
手探りで引きとめた いいわけ

振り向いて
この部屋の方角を見失う前に
あなたからの位置を
そっとずらす

しまい忘れた
パステル画の背景で
私はいつものように
窓際のカーテンに包まり
鏡の奥から
遅れ気味に林檎をかじる