5月の真ん中
まぶしすぎる風に流されて
遠く流れた過去の町に降り立つ

ひとつめの私を探す駅前通り
西に折れた迷路に佇み
木陰に潜むカフェから遡る

てのひらの
ベクトルはまだ揺れている
耳元に見えない妖精の羽の音
5月の踊りだすような風の音
この町に存在した私たちの
いくつかの出来事が
突然
降り出した雨の中にしみこんでゆく

迷い込んだ猫のように
後ろばかり振り返りながら
ふたつめの私をなくす裏通り

薄汚れたガラスの向こうに揺れる
一輪挿しのユウゲショウ
おでこをつけて覗き見ていた
未来を待ちわびる影
多羅満華 
アールグレイの香りがして
そこにいた 人の形に扉が開く

待ち人は誰だったのか
4つの文字を人差し指で宙になぞる
多羅満華 
覚えたての呪文のように
いつまでも
いつまでも

なりゆき通りの町を探そう