満席となった根川緑道を
いつものようにゆきすぎる
通りすがりの野良ネコのように
視線の位置が定まらなくて
心の距離が追いつかない

散り急ぐ花びらが
今年も最後と話しかける
樹齢50年
空洞になった魂が
また足元に転がった

これが正しい桜景色

桜守たちが点在して
人々の慌しい日常の鍵を外す

その場所から見上げるために
その列を乱さぬように
ため息さえも美しく やさしい
構図にかえる
その一瞬のために

同じ角度で切り取られた
等しいだけの空白が
いつかしあわせと呼ばれる日
手のひらに残された
運命線の彦ばえが
わずかな証となるように
明日もまた
忘れてきたものを
思い出すように歩き出す

根川緑道 せせらぎの春