セイントセイント       
 

想いなんか込めないで

手に取るちょこれーとの数々を

デパート地下1F

通路脇のステップから

眺めている。

むき出しの視線にさらされた

ガラスケースに粘り着く

甘い香り

 

踊り続ける女タチの太モモを

きれいなリボンで結んでゆるめて

片頬笑いの店員Aが

斜め45°のお辞儀で手渡す

 

どうかしている日常に

背中を押され

踵を踏まれ

肩越しに伸びる無数の指先から

奪い取られてゆく平常心

 

追いつめられた告白は

とうの昔に忘れ去られ

期間限定高鳴る胸に

不安の数を右手に束ねて

先へ先へと踏み出すヒール

 

閉店間際のフロア中央

上昇してゆくエスカレータの

ベルトのたわみにしがみつく

女タチのかすかな妄想

 

視線を外し 立ち上がる

私の遠い記憶のスキマに

とろけだしてゆく ちょこれーと

 

 

 

 

 

 さよならメリークリスマス    

 

半地下階段

下り志向のその日のあたしを

試すみたいな岐れ道

むくんですさんだ人差し指の

はずせない指輪をくるくる回し

まぶたを閉じて

波打つ静脈、十字も切って

踏み出す一歩

 

伸び上がる地上の

気分だけはクリスマスの

蒼い夜

変身し損なったツリーの前で

置物みたいに寄り添うカップル

とけかけた魔法の言葉にしがみつき

指先だけで愛を拾う

 

人待ち顔の視線が揺れる

円形広場のイルミネーション

昨日の足跡を消してゆく

あたしを追い越す 仮面の横顔

からくり時計の音が弾けて

最後の仕上げを整える 彼女たちの

粉雪みたいなファウンデーション

 

 

待ち合わせの相手はいつか

あなたの名前も忘れるだろう

 

永遠のこないこの世に メリークリスマス

約束を忘れたサンタクロースに メリークリスマス

流線形に吐息を重ねるあたしの未来に

メリークリスマス

 

たったひとつの願いも今は

思い出せない夜の階段

ほどけたリボンの意味をたぐって

星の見えない空を

見上げる