ちょっと前から「9月29日は中秋の名月」ってことが話題になっていた。

 これに乗らない手はない。

 職場のX(旧Twitter)のネタとして、勤務校から見える月をアップしようと思いつく。

 練習で前日28日に撮ったら、輪郭のぼやけた冴えない月が写っていた。

「うーむ。スマホではダメか。ちゃんとしたカメラを使わないと」

 家に帰り、ミラーレスを取り出す。

 1年以上使っていないので、バッテリーはゼロと思われた。

 アダプターを探して充電を始める。

「あれっ、ランプがつかない。接触が悪いのかな」

 長期間放置されていたミラーレスはご機嫌ナナメだ。

「よしよし、明日は大活躍だからね。頼むよ」

 必死でカメラに話しかけ、ケーブルを差し直してみたらランプが点灯した。

 ホッ。

 通勤の友に不向きだけれど、29日当日はミラーレスとともに電車に乗る。

 帰りは18時を回るだろう。

 暗くなり、月見にはちょうどいいはずだが、朝から少々胸騒ぎを感じた。

「なんか雲が多くない?」

 快晴にはほど遠い、東京都心の空。

 果たして、名月は姿を現すのか?

 

「ふう、やっと終わった。さあ帰ろう」

 仕事に区切りをつけると、時計は18時25分を指していた。

 さあ、ミラーレスを持って撮影だ!

 校舎を出て、撮影スポットに適した高台まで上がった。

「えーと、昨日はこの辺にあったはず」

 記憶を頼りに、月の見えた方角を見上げたが何もない。

「おかしいな、もうちょっと進んでみよう」

 空を見上げて足早に歩いたが、お月様は見つからない。

 もし、わざわざ充電したミラーレスがなければ、さっさと家に帰ったであろう。

 しかし、せっかくひと手間かけたのだから、もうちょっと粘ってみようという気になった。

「あ、あれだ!」

 予想よりも低い位置に、黄色がかった丸い月が素知らぬ風で浮かんでいた。

 うれしくなり、木やビルで邪魔されない場所まで歩いていく。

 まずは1枚。

 

「もうちょっと大きくしようかな」

 カメラをズームにしてもう1枚。

 

 

「クレーターまで撮れるように設定してみよう」

 シャッタースピードや露出を調整し、レンズを月に向けたが、いなくなっていた。

「へ? どこ?」

 ビルの影かと思い、移動してみたけれど、やはり見えない。

 どうやら、雲に隠れているようだ。

 しばらく待ってみたが、出てくる気配がない。

 あきらめて、2枚撮れたからいいやとカメラをしまい始めた。

 ちょうど電車も来たので、そのまま家に帰ることにした。

 電車を降りて空を見上げる。

 練馬の月も、ときどき雲の切れ間から見える程度だ。

 時間帯にもよるのだろうが、少なくとも、18:30から19:30は雲による嫌がらせで名月を堪能することはできなかった。

「よしよし、許してちょうだいね」

 不満そうなミラーレスをなだめて、もっと活用せねばと反省した。

 シャッターチャンスまで待てない私。

 短気とは思わないが、面倒くさがりという自覚はある。

 しかし、ネットニュースでは「晴天のためよく見えた」といった内容が報道されているではないか。

 ムムッ。

 結構くやしい。

 よい写真を撮るには、根気が大事ってことですな。

 

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