コロナ禍以来、二世帯住宅の1階に夫が、2階に私と娘が住んでいる。
1階には夫の両親の仏壇もあり、毎朝お線香を手向けているようだ。
晩年の義母は介護が必要となり、施設に入所するまで義母に合わせて家の中を整えた。
たとえばトイレ。扉はなくし、カーテンのみで仕切ってある。
「あれ? 何か変な匂いがするな……」
たぶん、このトイレがいけないのだろう。
芳香剤では隠しきれない独特の匂いが、リビングまで広がり、夫の加齢臭と入り混じって、複雑なことになっている。
例えるならば、ジメジメとした時期に部屋干しをした洗濯物が近いかもしれない。
しばらく放っておいたのだが、先月あたりのラジオで、加齢臭は柑橘系の香りで消えるといったことを聞き、試してみることにした。
スーパーで買ってきたのは、スイートオレンジ&ベルガモットの香り。
ベルガモットとは何ぞ?
調べてみたら、イタリア産のミカン科ミカン属の柑橘類だそうな。
フタを開けたら、ふわっとオレンジのような香りが漂ってきた。
「うーん、いい匂い」
思わず、1階に持っていくのをやめて、自分の部屋に置いてしまおうかとの誘惑に駆られたが、何とか持ち直した。
果たして、夫はどんな顔をするのだろう。
「アンタ、臭いわね」と言われたと思われないよう、さりげなく勧めてみる。
意外なことに、夫は素直に「ありがとう」と受け取った。
自分でも何とかしなくてはと思っていたのかも?
だったら、もっと早く行動すればいいのにと思わないこともないが、波風立たずに受け入れられたことを評価する。
1階には大きな冷凍庫があるため、ときどき食材を取りに行く。
爽やかな柑橘系の香りが楽しみだ。
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「これはしたり~笹木砂希~ 」(エッセイ)
「いとをかし~笹木砂希~ 」(エッセイ)