3月までの私の職場は赤羽付近にあった。

 テレビのグルメ番組で、赤羽にある高級ラーメン店の映像が流れたとき「行きたい」と反応したのだが、仲良しの同僚が忙しくて延び延びになっていた。

 定期区間が変われば、わざわざ足を運ぶほどのことでもないだろう。

 しかし、別の同僚が「異動前にお昼を一緒に食べない?」と聞いてきた。

 自分との別れを惜しんでくれる人がいるのはありがたい。

「行きましょう」と即座に答え、浮かんできたのがこの店である。

 山雄亭。

 見た目は日本料理屋さんのようで、天ぷらが食べられそうな雰囲気だが、それは錯覚だ。

 ちょうど、ひと月前の3月28日、私はこの店にやって来た。

 天ぷら屋チックな入口をくぐり、通路を進むと券売機がある。

 私は「えっ」とたじろいだ。

 券売機のある店は、大衆食堂や立ち食いソバというイメージだ。

 立派な店構えや、通路に敷かれた石の重量感にはそぐわない。

 気は進まなかったが、券売機のボタンに目をやった。

「笹木さん、どれにする?」

「えーと、えーと、特上塩らぁ麺ってヤツがよさそうなんだけど、どこ?」

「これ?」

「これだ」

 お値段は何と1400円。

 食券を買ってカウンター席につく。

 10数席といったところか。

 まだ11時半だというのに、小ぢんまりとした店内が半分以上埋まっている。

 結構、流行っている店のようだ。

「らっしゃい」

 スタッフに食券を渡し、おしゃべりしながら待った。

「あーあ、この先どうなっちゃうのかな」

 同僚がため息をついた。

 彼女は異動しないが、4月からの人事に抗議していたから不安なのだろう。

 私は異動するので、もっと不安だけれども。

「お待たせしました」

 お目当てのものが運ばれてきた。




塩らぁ麺

 店構えと同じく、和風テイストのらぁ麺である。

 だしの利いたスープは、薄味であっさりしていた。

 私は以前から細麺が好きなので、このくらいの太さがちょうどいい。

 上に載ったタケノコは香ばしく、チャーシューにはコクがある。

 玉子に捺された店名がユニークだ。

「美味しいわねぇ」

 同僚も気に入ってくれたらしい。

 彼女とは6年間、同じ職場にいたというのに、ほとんど関わりがなかった。

 最後の1年間だけ同じ科目を受け持ち、あれこれ話すきっかけができたのだが、もうお別れだ。

 もっと前から仲よくできればよかったなぁ……。


 あれから、もう1カ月が経つ。

 今日は土曜日、仕事がない。

 新しい職場にもなじみ、周りのペースに合わせて行動できている気がする。

 久しぶりに、今日のお昼はラーメンにしようかなぁ。

 と思ったら、正月の残りの餅を見つけてしまった。

 しょうがない、雑煮でも作るか。

 

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  「これはしたり~笹木砂希~ 」(エッセイ)

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