既に葵の上や夕顔でも登場した六条の御息所。
彼女の心の中に渦巻く嫉妬や憎悪が生霊となって、憎い相手に取り憑いて、相手を殺してしまう、そんなキャラクターです。
もともと一途に思い詰める性格なので、その妄執が自分では夢だと思っていても自分の髪や衣服に付いた物の怪調伏(もののけちょうぶく)の護摩や芥子(けし)の匂いで現実だと悟り、また悩むんですよね。
源氏17歳。ヤリたさ一心で、7歳年上の前(さき)の皇太子妃である六条の御息所と強引に関係を結び、源氏が他の女性に通い出すと、御息所には通わなくなりました。これを夜離れ(よがれ)と言いますが、夜離が続くと棄てられたと同じなんです。
住居のインテリアセンスが良く、裕福で教養と美貌に恵まれ、かつての皇太子妃という高い身分の彼女にしてみれば、源氏が自分より低い身分の女に夢中なのは屈辱以外の何物でもないのでしょう。
御息所は源氏との恋の苦しさから別れを決意します。
丁度彼女の娘が伊勢神宮の斎宮(独身の皇女から選ばれる)に決まったので、娘と一緒に伊勢に下向しようと思います。
その頃、上賀茂神社の斎王が変わりました。御禊(ごけい=天皇が即位した後で行われる禊ぎの儀式)のお供に選ばれるのは、家柄と見た目が良い貴公子と決まっています。源氏も選ばれ、最後に晴れ姿を一目見ようと御息所は行列見物に出かけました。
源氏の正妻・葵の上は妊娠中で気分が悪かったのですが、女房達にせがまれて見物に出かけました。
行列を一目見ようと人と車が犇(ひし)めきあう一条通りで、御息所の車と葵の上の車が場所取りをめぐって喧嘩になりました。御息所の車は大きな損傷を受け、御簾も破られて衆人の笑いものになりました。御息所にとってこんな辱めはありません。(車争い)
喧嘩を止めようとしなかった葵の上に御息所は憎悪し、源氏の「妻とはうまくいっていない」と言った嘘への怒りが彼女を支配します。
※(戦国時代の魔女の独り言。あのね、御息所さん。不倫男が妻とはうまくいっていないと言うのは、ほぼ100%嘘です。うまくいっていないと言いながら妻はちゃんと妊娠しているケースが殆どですよ)
御息所が葵の上の出産現場に生霊となって現れ、「調伏が苦しい、緩めてくれ」と源氏に訴える場面や、御息所の髪や衣服についた護摩や芥子の匂いがいくら洗っても取れないといって嘆き落胆するシーンは、後世にお能や芝居などに取り入れられます。年下の男の情熱に負けて関係を結び、成就しない恋に苦しむ女の情念の熱さは、それだけで芸術となるのでしょうね。
伊勢に下る斎宮は嵯峨野の野の宮に籠って1年間潔斎をします。御息所も一緒に籠っています。
源氏は彼女を訪ねて行き、最後の契りを結び翌朝、二人は別れます。(野々宮の別れ)
源氏との別れを決心した筈なのに、こうして訪ねて来られるとまた関係してしまう女の悲しさ。御息所には未練があったのですね。
これで御息所の出番は消えたと思ってはいけません。御息所の源氏への情念は彼女の死後も怨霊となって、源氏の愛人たちを不幸にします。
(※戦国時代の魔女の独り言・・・男性の皆さん、女に恥をかかせたり、粗末に扱うととんでもないしっぺ返しに遭いますよ。)
男性の中には御息所をコワいとか、付き合いたくないとか、好きではないとかマイナス評価をする人が多いです。
けれど、女性からすると御息所に同情票が集まるのです。八代亜紀の歌の文句じゃないけれど、♪♪憎い、恋しい、憎い、恋しい、巡り巡って今は恋しい♪♪御息所の心そのままですね。
源氏の性欲の犠牲になった可哀そうな人の一人です。