とにかく切なく、重い作品だった。

 

 父親が亡くなり、母は彼氏と暮らし始めて、叔母の家に引き取られた10歳の少女・更紗(さらさ=白鳥玉季)。

学校帰りの公園で読書していた更紗、離れた場所で読書していた佐伯文(さえき・ふみ=松坂桃李)に急な雨が襲う。

更紗にベージュ色の傘を差しかける文。

「帰らないの?」

「帰りたくないの」

「家、来る?」

「行く」

こんな短い会話だけで、文は更紗を家に連れ帰った。

(※家に帰るまでの道すがらのロケ地は、長野県松本市・女鳥羽川(めとばがわ)沿いの橋の上)

 

 更紗は、叔母の中2の息子が夜になると更紗の体を触りに来るのが嫌だと、文に話す。

文は自分の事はあまり語らない。二人で一緒に食事をし、

同じ部屋で寝泊まりするうち、更紗は居場所を見つけたように徐々に屈託なくふるまう少女になった。

 そんなある日、行方不明となった更紗のTVニュースが流れた。

 

 湖で二人は手を繋いでいる。(※ロケ地は、長野県大町市の青木湖)

文は「更紗の体は更紗だけのものだ」と、しっかり手を握る。

そこに現れたのが私服刑事たち。

刑事たちは更紗と文を乱暴に引き離す。

この瞬間から、文は未成年者誘拐犯となり、更紗はその被害者となった。

 

 15年後。

 更紗(広瀬すず)はファミレスでバイトしながら、恋人・中瀬亮(なかせりょう=横浜流星)と同棲している。

亮は上場企業のエリートサラリーマンで、実家は土地持ちの農家。

結婚するには申し分ないと、更紗の同僚でシングルマザーの安西佳菜子(趣里)は言う。

 亮は結婚を決意し、更紗を実家に連れて行き、両親に合わせた。

 その夜、更紗のアザを見た亮の家族が、亮はDVの傾向があり、元カノにも暴力をふるったと伝える。

 

 更紗が同僚の安西に誘われて入ったカフェで、店主をしている文と再会する。

(※ロケ地は松本市・女鳥羽川沿いに実在するカフェ)

お互い気づかぬふりをしているが、更紗の動揺は隠せない。

 その後、更紗はそのカフェに通い始める。

それを嫉妬した亮は、文の過去をネットにアップし、拡散を狙った。

 

 文には看護師をしている恋人・谷あゆみ(多部未華子)がいた。

文に会いに行った更紗は、文と恋人がベージュ色の相合傘で歩く姿を見る。

 傘もささず、雨に濡れながらこっそり後をつける更紗。

二人がマンションに入って行くのを見た更紗は、文が幸せであることに泣きながら良かったとつぶやく。

 

 亮の更紗への暴力は増した。このシーンは息をのむ壮絶さ。

そこから逃げ出した更紗は血だらけになりながら夜の街を走る。

(※ロケ地は松本市・蔵のまち中町)

更紗がうずくまっている所に文が話しかける。(※ロケ地は松本市本町通り・信毎メディアガーデン)

「店来る?」

店内で更紗の傷の手当をする文。

 

 更紗は文が住むマンションの隣の部屋に越した。

(※ロケ地は、長野市緑町・長野市役所近くの中古マンション。ワンフロア貸し切りでの撮影。この時は機材を積んだトラック3台にワゴン車1台が駐車場に。)

 

 同僚の安西は、彼氏と3日間の沖縄旅行に行くために娘・安西梨花(増田光桜)を更紗に預ける。

しかし、3日経っても安西は帰ってこず、連絡がつかない。

 これが後に、再び更紗と文の過去を世間に知らしめる最悪の事態を招く。

 

 亮は更紗のマンションを突き止め、戻ってくるよう涙ながらに懇願するが、更紗は聞き入れない。

マンションの郵便受けに文の過去を暴いたチラシが投函されたことに、更紗は亮の仕業かと

亮のマンションを訪れる。が、亮は無精ひげを生やし、出勤している様子もなかった。

 嫉妬が昂じて壊れ始めていた亮は、その場で自殺を図った。救急車で搬送される亮は更紗の手を握り「もういいんだ」と。

 

 警察で事情聴取を受ける更紗。亮の事件は自殺未遂だと亮本人が語ったことで更紗の疑いは晴れた。

それで済むかと思いきや、刑事は、文との過去を言い、挙句、更紗が安西の子・梨花を文に当てがったとまで。

誘拐事件だと決めつけられて、文の店に捜査が入る。引き離される梨花と文。あの湖のシーンと同じ状況。

 文の店が入るビルの扉にはペンキで「変態」「ロリコン」「死ね」の落書きが大書された。

 文の恋人が来て、彼をなじった。

「あなたが佐伯文だとは知らなかった。吐き気がした。そんな人と付き合っていた自分にゾッとした」と。

 恋人は、最後に一つだけ聞きたいことがあると言った。恋人と一度もつながらなかったのは、そういう事だったのかと確かめたかった。文は否定しなかった。「僕は小さい女の子が好きだ。大人の女性とならできると思って付き合った」と返事をした。

こんな嘘までついて、知られては恥だと文自身が思っている自分の体のヒミツを隠した。

 

 ファミレスにメディアからの取材申し込みがいくつかあった。店側は店の名前が出ることを恐れた。

そんなこんなで、更紗は店を止めざる得なくなった。

 

 文の過去は、文によって少しづつ明らかにされる。文が少年院から帰ると、母親は(佐伯音葉=内田也哉子)庭に小屋を建て、文をそこに住まわせ食事だけは運んでくれた。文は引き籠もり、読書だけが日課となった。

 遡って中学生の時、母親は成長が遅い庭木を引き抜いた。その庭木は文の生育不全を象徴する暗示だった。

文の身体は大人の形をしていても、健康な大人の男性なら誰でも持ちうる男性機能が未発達だった。

文は、それを恥じて隠し続けた。

 

 更紗同様、文にも居場所が無かった。母の愛を受けず、家庭の暖かさも知らなかった。

異性とのカラダの繋がりに、更紗も文も問題があった。

 更紗からすれば、自分を守ってくれる上にカラダを求めない年上の文。

更紗と一緒にいれば心が安らぎ、カラダの関係を求められずに暮らせる文。

カラダのつながりよりも高い次元の魂の深いところで結ばれている二人。

 この二人の心情を理解するには難しい人もいるのではないだろうか。

 

 どこに住んでも暮らしても、過去の誘拐犯とその被害者というレッテルと色眼鏡はついて回る。

場所を変えて「流浪の月」になるより二人が幸せに生きていく道はない。

 月には文字通り天体の月の意味があるが、英語では「ぼんやりうつろう」「さまよう」の意味がある。日本語で解釈するより英語のMOONの解釈の方がピッタリくるように思う。

 

 人は誰でも対象物を自分が見たいようにしか見ない。一度そうだと思い込んだら、その思考のままに進んで行く。

そのことで勝手なバッシングをし、当事者が傷つこうが、人生を変えてしまおうがお構いなしの他人の心の無責任さ。

それがこの作品のテーマではないだろうか。

 更紗が2度ほど言った「私、可哀そうな子じゃないよ」が、それを示唆している。

 

 松坂桃李、広瀬すず、横浜流星らの役柄は彼らの演技を一段とグレードアップさせた。

松坂の文の視線はいつも一点を見つめていて感情が無い。普段CMやドラマで見る松坂より、かなり難易度の高い役を演じたと思う。痩せてひょろっとした身体で前髪をおろしているので、最初は本当に松坂か?と思ったほどだった。

 広瀬すずちゃんも可愛いだけでない、リアルな感情表現が巧い女優に成長した。亮に掴みかかるシーンは凄かった。

 国宝級イケメンと言われた横浜流星は、ピシッとしたエリートサラリーマンから、嫉妬に苦しみ哀れなほど壊れて行く男の精神状態を立派に演じた。

 松本の夜のしっとりとした抒情的な風景や青木湖の静寂さは、この作品に奥行きを与え、作品の質を高めている。