お互いにフォロワーになっている、なおちんさんのブログで知りました。

短編集なので、隙間時間に読めます。

 

①見知らぬあなた・・・「あなた」は決して姿を見せない。それもその筈、「あなた「は自分が幽体離脱した相手。相手との文通を通して相手が自分であることを知るという内容。

幽体離脱した自分が、憎い人をいじめたり殺したりって言う話は既に紫式部ちゃんが『源氏物語』の中で「六条の御息所(ろくじょうのみやすどころ)」という高貴でプライドの高い女性、=光源氏の年上の秘密の恋人として登場させているので、特別珍しくも無いかな。

 

②ささやく鏡・・・その鏡を覗くと自分の直近の未来が映し出される。幸福な場面が写っていても実は不幸の始まり。

 

③茉莉花・・・父親が2つの家庭を持っていて、愛人の子に自分と同じ茉莉花と名付け、こともあろうに愛人は自分の母と同じ秋子という名だった。札幌に単身赴任していた父親が書いた手紙を、愛人の子・茉莉花が保管していたことで、本妻の子・茉莉花は20年後に真相を知った。

 

④時を重ねて・・・妻の浮気を疑った夫が探偵に調査を依頼する。妻の旅行先まで尾行した探偵は、列車の座席でもホテルでもレストランでも、妻は単独行動をしていた事実を夫に報告する。ホテルの宿帳に妻は「宮脇」と記した。夫はそれを聞き、そんなはずはないと言いきった、宮脇は夫の部下であったが2年前に死亡している。

けれど、探偵が妻の旅行先で撮ってあげた写真には、妻とその宮脇が写っていたというロマンチックホラー。

 

⑤ハーフ・アンド・ハーフ・・・何でも半分にしなければ気が済まない真由子は、辰彦と半年間の契約結婚をしたが3年が過ぎ、辰彦から別れを告げられる。辰彦は普通の結婚生活をしたくなったのだった。辰彦は真由子の店の店員・妙美と結婚したかったので、真由子が妙美と同性愛者だったから、彼女と別れてくれと切り出したのだった。

真由子は壁の絵も、妙美の死体までも半分にして、辰彦の新居に送った。出張から帰った辰彦は荷物が片付いていないし、妙美がいないのを不審に思い、真由子に電話をする。真由子は辰彦に、妙美が持っているポケベルを鳴らしてみればいいじゃない?と言う。果たしてポケベルは部屋の段ボール箱の中から鳴り響いた。死体まで半分にするなんてブラックだね。

 

  ポケベルを鳴らすというアイデアは、昔のコロンボ刑事でやっていた。壁に塗りこめられた死体から着信音が聞こえ、動かぬ証拠になったという話。

 

⑥双頭の影・・・自分の寺の天井に、体は一つ頭が二つ、腕は三本、脚は四本ある異形の怪物のシミがあった。その正体は、檀家さんの家で起きた事件で、実の兄妹でありながら恋愛の果てに心中した二人の弔いのために、死体があった板を剥がして天井板にしたという話。

 実の兄妹でありながら恋愛や近親相姦する話は古今東西あるし、血染めの床板を剥がして弔いのために天井板にした話も聞いたことがある。素材を上手く組み合わせたなぁ・・・という感想。

 

⑦家に着くまで・・・乗り合わせたタクシーの運転手と、相棒を殺してきたばかりの芸人の会話。

 

⑧夢の中へ・・・まるで井上陽水の歌詞。自殺を図った少年が、昏睡状態の中で経験するいくつかのこと。江戸時代のホラー小説『雨月物語』の中の「夢応の鯉魚(むおうのりぎょ)」を連想させる。

 

⑨穴二つ・・・半ば失業状態の良一は、妻が働いていることや妻の実家が残してくれたアパートからの家賃収入があるのでヒマな時間をPCメールに使い、メル友と親しくなった。が、実はそのメル友はストーカーとなり妻にも迫ってきた。

 良一は、妻が死ねば妻の財産が自分の物になりアパートを潰してマンションを建てようと思っていた。妻を殺し、犯人をストーカーにすれば何もかも上手くいくはずだった。しかし、ストーカーの正体は・・・。推理小説で言う「逆転」。人を呪わば穴二つとはよく言ったもので、結局は自分の首を絞めることになった。

 

⑩遠い窓・・・母を自動車事故で亡くし、同乗していた自分も足が不自由になった少女。別荘に住んでいて、父親は仕事の関係で本宅にいる。父親は愛人を別荘に連れて来て少女に紹介し、再婚したいと言った。

美しかった実母を愛する少女はその愛人を憎んだ。実はその愛人こそが実の母親だったのだ。そんなことを知らない少女は、父親と愛人が別荘からクルマで帰る時、眠気覚ましのコーヒーの中に睡眠薬を入れて父親に渡した。

 

⑪生まれ変わり・・・生まれ変わりの話はどこにでもあるけど、これは臓器移植というカタチで恋人が別の女性の身体の中で生きているという現代医療ネタ。

中島みゆきの「時代」の中の歌詞♪今日は別れた恋人たちが生まれ変わって巡り合うよ♪を連想させる。

 

⑫よもつひらさか・・・ちょっとやそっとではコワイと感じない鈍感な私が、最後にきて身震いしたのがこれ。

よもつひらさかを漢字で書くと黄泉平坂。そう、古事記にある黄泉(よみ)の国=死者の国に向かう坂。

死者は黄泉の国に向かう時、一人では寂しいので誰かを道連れにするという。

この坂の途中で、知った人や仲の良かった人、或は知らない人と出会って、食べ物を貰って食べてはいけないと、この坂がある田舎町では言い伝えられてきた。

 

 主人公の「私」は出産した娘のお祝いにこの町に降り立った。娘の言っていた坂を示す石を見つけた時、ふいに眩暈がしてその場にうずくまった。一人の青年が声をかけてくれ、「私」は青年が差し出してくれた水筒の水を飲んだ。

 二人は連れだって坂を歩きながら、青年はこの坂のいわれを「私」に話した。違和感を感じ始めた「私」はやっと気が付いた。水筒の水を飲んだのは坂を示す石の外だったか内だったか・・・。坂はいつの間にかゆるい下り坂になっていた。

 

 この話が一番怖かった。

何故なら、似たような経験が私自身にあるから。私の場合は結界石ではなく、大木の下にうずくまる白い着物を着たおかっぱ頭の少女だったけれど・・・。

 

 この作者は、『古事記』や当時流行した音楽、古典作品、旅行先の経験などの素材を上手く組み合わせてオリジナルの小説に加工した。本物の作家だと思う。他の作品も読んでみたい。

例えば「鬼」など怖そう。