第二次世界大戦中のヨーロッパは、ヒトラー率いるナチス・ドイツの勢力増大と侵攻が各国を脅かしていた。

 

 その魔の手はフランスとイギリスにも迫りつつあり、英仏連合軍30万人の兵士がダンケルクで苦戦するなか、強情で感情をすぐ表に出し、彼の100のアイデアのうち96は危険といわれるほど型破りで嫌われ者の、おおよそ英国人らしからぬ男が首相に就任した。

その名はウィンストン・チャーチル。

 

  戦況悪化につれ、ナチの連合国であるイタリアからは講和の仲介が申し込まれる。議員の中では賛成派と反対派に分かれ、しきりに講和を勧める側近もいたが、首相は頑として受け付けなかった。

 

 では、どうする。このままではドイツに侵攻されてしまう。服従か徹底抗戦か。

同時に、ダンケルクにいる兵士を救う手立てを講じなければならない。

首相は、かつての大英帝国の植民地であり今はイギリス連邦となっている国や連合国に、ダンケルクにいる兵士を撤退させるのに必要な船舶の調達を依頼する。

しかし、答えは絶望的だった。

 首相は、軍関係者に電話で、ダンケルクまで行ける船なら何でも良いので民間の船を調達するよう依頼する。

 余談だが、ダンケルクの戦いと兵士脱出の経緯は昨年公開された映画「ダンケルク」を観れば理解が深まる。

 

 苦悩する首相を支えたのは、彼の妻。

朝からスコッチを飲み、絶えず葉巻を欠かさず、お風呂でさえ会議をする、そんな破天荒な男でも夫として愛し、励ました妻。英雄の陰に良妻あり、である。

 

 首相は、「民衆の声を聞く」ことを思いついた。ある日、ロンドンの街で公用車が信号待ちしている間に、勝手に一人でクルマから降り、地下鉄に乗った。

 地下鉄に乗るのは初めての首相が、壁に書かれた路線図を見ながら側にいた少女に自分の行き先を確認し、電車に乗り込んだ。

 

 乗客はすぐに首相だと気付き、気軽に自己紹介をし握手をした。政府側と民衆の壁が無いのが、如何にも民主政治発祥の地、英国らしい。

 首相は諦めてドイツに降伏するか、抗戦するかを乗客たちに問う。人々の口から出た言葉は「NEVER」。「決して諦めない」という民意だった。

 

 首相は議事堂に帰り、民意を伝え、議会に問う。「ウィンザー城、ウェストミンスター、議事堂にカギ十字の旗が立てられてもよいのか」と、大声で熱弁。議員たち大部分の答えは「NEVER」。英仏は徹底抗戦を決意した。諦めることを嫌った国民の勝利であった。

 

 ヒトラーもチャーチルもカリスマ性の持ち主。戦争という究極の困難にあって、そのカリスマ性は人心を掌握し、人民を導く星となる。

 残念なことにヒトラーの場合、それが狂気となった。

 チャーチルの場合は、イギリス人らしからぬ言動でも彼の頭の中は冷静で、動揺せずに解決策を思案する。これはイギリス人気質である。動揺したりパニックになるのは恥とされる国民性なのである。

 

 この映画の見どころは、首相就任から抗戦の決意までの歴史秘話もさることながら、首相を演じたゲイリー・オールドマンの演技とメイク。

 ゲイリーはチャーチルの容姿、声、話し方まで徹した演技を披露した。チャーチルの英語はかなり聞きづらい。クイーンズ・イングリッシュではなかったから。

 

 更にその容貌は、200時間にも及ぶ特殊メイク。そのメイクを担当したのは特殊メイクの第一人者・辻一弘。メイクアップ部門で日本人初のアカデミー・オスカー賞を獲得したニュースは記憶に新しい。彼が手掛けた芸術ともいえるチャーチルの顔もまた鑑賞に値する。

 

 映像は色彩を極力抑え、暗い世相を表現している。英国をヒトラーの魔の手から救った英雄でありながら、戦後の選挙で敗れ去ったチャーチルの人間性を描いた作品。その完成度は、抜群に高い。