妹背山婦女庭訓【丸本】五段目「志賀の大内山」 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫


五段目 志賀の大内山



 逆徒凶賊直ちに退き、年尽き新たに春の空。

都を江州志賀に移され、今ぞのどけき大内山。

主上の叡慮安らかに、なほ奥深き玉だれや。


 中央の座には中臣の御大臣鎌足卿。同じく淡海、義士の面々、玄上太郎利綱、一子三作もろともに清涼殿に居並べば、鎌足の大臣は治国の褒禄沙汰ありて


「入鹿が妹橘姫、親兄にかへ忠義の貞節。豊代姫と名を改め、淡海が宿の妻と我が君の勅定なり。また大判事清澄はしばらく敵の臣下となり、四海を治むる智謀の労、言葉にも述べがたし。向後武官の司とし、三作を養子となし、志賀之助清次と名乗るべし」


その外に太宰の後室、金輪五郎を始めとし、各々大禄賜はりて主上を初め一座の勇み。




 かかる所へ金輪五郎、残党を搦め取り、凱歌をとなへ入り来れば。


故人となりし清舟、雛鳥両人が追福に妹背の山とかはれども、かはらぬ志賀の山桜、供養絶えせぬ花の塚。

誉れを世々の香に匂ふ折吉し川波春の風。幣もて払ふ国の富、市中屋敷と所せき月の遠近松の半ば、二月の夕べ暖かに、坂東南海穀、民は至善平らかに秋に米、夏に麦、鱗までも浮める形。


千代の並松、洛陽に文作青き若みどり、恵徳の姿、満願の、神は伊勢、また春日に八幡、三つの恵みも鎮常、打てばはづさぬ陣太鼓、久しき御代を祝しける。




 





 

 

 

 



とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
 太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
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豊竹咲寿太夫
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